医者でもない私たち。誰が、誰を、どうやって守るのでしょうか?(※画像はイメージです)

■「命を守る」とはどういうことか?

「命を守る」。この4文字、医療や防犯・防災、介護福祉といった特定の業種や業務に従事する人々であれば、第一の使命として心に響く言葉だと思います。けれども私たち一般人となると、日常の中ではまず使わないし、口にしてもなんとなくよそよそしい響きがあることも確かでしょう。

しかし今回は、あえて基本に立ち戻ってこのことを再確認しておきたいと思います。「非常事態が起こった時、組織として、会社として命を守る用意はできていますか?」。これを正面から問いかけてみようと思うのです。読者のみなさんは明確に答えられるでしょうか。

いかんせん、この種の言葉は「正義の味方」と同じで、けっこう漠然としています。単に耳障りがよいだけで、具体的に何が正義なのか、どうすることが正義に味方することなのか、すぐには思いつきませんね。すぐに思いつかなければ、前もってその行動を予測することもなぞることもできない、つまり正義の味方としてどう動けばよいか可視化することはできないということです。

ともかく前置きはこのくらいにして、「命を守る」とはどういうことなのか、このあたりをしっかりイメージできるようにブレークダウンしてみましょう。これは次の3つの問いに分けることができます。

・だれを守るのか?
・だれが守るのか?
・どのように守るのか?

なぜERP(緊急対応プラン)策定の解説に先立ってこれらの問いが必要なのかというと、それは前回お話ししたERPの3つのアクション―危機の「察知」「伝達」「対処」の主体もしくは対象だからです。だれが「察知」し、だれに「伝達」し、どのように「対処」(だれを守る)のか。これを認識しておかないことには先が進みません。急がば回れ。みなさんもご自身の会社に当てはめて考えてみてください。

■だれを守るのか?

一般の会社では、これを自問してすぐに思いつくのは「従業員」でしょう。あるいは公共交通機関や、百貨店やデパート、娯楽施設などでは、多くの不特定多数の人々が利用しますから、いわゆるお客様(利用者や消費者、訪問者と称される人々)も率先して守りぬかなければなりません。しかし、「従業員」と「お客様」だけだと、まだ輪郭ぐらいしか見えてきません。

実際には、会社の規模や業務の種類、あるいは組織の内外にどのような立場の人々が関わっているかによって、守るべき人の顔がいろいろと違ってくることが考えられます。中でも、次の①~③は意外と見落としやすいので注意と配慮が必要でしょう。

①派遣社員・パート・アルバイト従業員
正社員の顔しか思い浮かばないとしたら、あなたの会社の危機管理は失格です。会社の事業を支えている人材を守るのに、人事制度や待遇の違い、法律上の区分などで緊急時の対応を区別するなどというのは論外でしょう。

②障害・持病のある人・高齢の人
今や障害のある人や持病を申告している人が企業内で活躍する時代です。高齢の労働者も増えています。万一の際は緊急通報が聞こえるか、安全に避難できるか、そのような懸念のある人がどのフロアに何名所属しているのかを理解しておくことが大切です。

③外国人(言葉が通じにくい)
外国人の研修生や労働者が増えています。こうした人々を守るためには、緊急時のコミュニケーションのノウハウをしっかり確立しておくことが必要です。

また、例えばオフィスビルの運営管理会社などは、テナントを意識する必要があります。火災や地震が起こったら勝手に非常階段から避難してください、では命にかかわる事態にもなりかねません。また、薬品や危険物を扱う工場では、万一の際の有害物質の漏出や拡散被害から周辺住民を守らなければなりません。みなさんの会社では、どんな人々を守ればよいのか、その顔を思い浮かべることはできたでしょうか。このあたりを話し合い、守るべき人々をしっかりイメージしておきましょう。