現場対策本部の様子

日本で唯一、海上保安庁から指定海上防災機関として規定される一般財団法人海上災害防止センター(MDPC)は1日、同社が独自開発した事故対応指揮運用システム「MDPC-ICS」を活用した演習を開催した。ICSはインシデント・コマンド・システムの略で、米国で開発された災害現場・事件現場などにおける標準化された危機対応の管理手法。事実上の世界標準としてオリンピックの運営などさまざまな場面で活用されている。

演習にはMPDC職員と、「契約防災措置実施者」と呼ばれる同センターと契約する石油プラント会社などの社員約70名が参加。「大型タンカーとケミカルタンカーが衝突し、大量の原油が海上に流出した」という想定のもと実施された。

現地本部でオイルの流れを確認する

訓練を指導するMDPC防災部長の萩原貴浩氏は、「海上事故でオイルが流出した場合、国や県などの自治体のほか近隣の漁業関係者などさまざまな人が対策本部を設置し、それぞれに除去作業を開始してしまう。本来であれば「何を犠牲にして何を守るのか」を明確にした「災害ガバナンス」が不可欠」と、海上事故対応の難しさを強調する。

演習を解説するMDPC防災部長の萩原貴浩氏

同システムを活用した演習は2010年から開始し、今年で7回目。米国で開発されたICSのノウハウをもとに、費用集計画面などでは日本独自のカスタマイズを加えた。ICSの柔軟な組織編成に対応するため、ドイツで開発された部署を簡単に追加・削除できるソフトも導入。報道機関への対応のため、公開できる情報は全てインターネットに掲載することで問い合わせを減らすなど工夫を凝らしたほか、難しい専門用語についてはあらかじめ各種の「技術資料」を用意。基本的な説明の時間も短縮できるという。

組織図は柔軟に修正することができる
公開できる情報は特設サイトに掲載することで、報道機関などからの問い合わせを減らすことも
基本的な情報は「技術情報」として公開。「この資料だけでも教科書になるほど充実している」(萩原氏)

萩原氏は「10年近くかかり、やっとここまでシステムを進化させることができた。ICSは海上事故対応だけでなく、オールハザード(すべての危機)に対応することができる。今後は自治体や企業でも活用してもらえるように関係各所に働きかけていきたい」としている。

(了)