帰宅困難者対策に、現在もっとも力を入れている企業が森ビルだ。食料20万食、アルミブランケット8万枚、帰宅困難者用のテレビ局の開局…。いずれも一般企業には真似できそうもないことだが、見習うべき点も多い。訓練や帰宅困難者を受け入れるにあたっての姿勢だ。

■子連れにはホテル提供

平日10万人の買い物客や観光客、ビジネスマンで賑わう六本木ヒルズでは、東日本大震災で帰宅困難となった多くの人々が施設内で長時間を過ごした。

ウエストウォークと呼ばれる吹き抜けの商業エリアでは、ブランド店やレストランが軒を連ねる通路に震災直後は数百人がたまっていた。さらに、49階にある多目的会議室のアカデミーヒルズにも数百人が滞留していた。 

最寄りの日比谷線が夜11時ごろに復旧したため、ほとんどの人がその日のうちに帰宅できたが、森ビルでは、こうした帰宅困難者に食べ物や飲料を提供したり、小さな子供を連れている家族にはグランドハイアットホテルの部屋を提供するなどの対応にあたった。 

『逃げ出す街から、逃げ込める街へ』 

森ビルが掲げる再開発のコンセプトだ。同社震災対策室事務局長の佐野衆一氏は「震災があっても決して来訪者を閉め出すようなことはせず、可能な限り受け入れる」と言い切る。 

六本木ヒルズでは、帰宅困難者用に5000人の食料を3日分、計4万5000食(5000×3食×3日)備蓄をしている。このほかテナントや従業員、ホテルの宿泊客、マンションの居住者用の非常食を含めるとヒルズ全体で10万食、その他の森ビル所有のビルまで含めると全体で実に20万食にもなるという。 

水は1食あたり500ミリリットルを備蓄しているが、内閣府と東京都でつくる首都直下地震帰宅困難者等対策協議会が今年9月に発表した最終報告では1日3リットルが目安として示されたため、今年度中には倍増させる計画だ。地下水を汲み上げる設備もあり、水道が使えなくなった際の雑用水として使うことができるほか、濾過装置で飲料水にすることも可能だ。 

食料や水の有効賞味期限は5年間。拠点ビルに保管しているが、同社では、イントラネット上の災害ポータルサイトで、どこの倉庫に何食分あるのか、いつ賞味期限をむかえるかなどを管理している。毎年、期限を迎える半年前にNPO法人を通じて全国の福祉施設などに提供しているという。 

このほかアルミブランケット8万枚、簡易トイレ12万枚…と想定する受け入れ者数を大幅に上回るものもある。「帰宅困難者はずっと同じ場所に滞留するのではなく、一晩だけ泊まって、朝になったら自宅に向かって歩き出すような人が実際には多いと思う。そういう一時滞留者、あるいは近隣の人たちにも、可能な限り提供できるようにしている」と佐野氏は説明する。