SNSで悪評は拡散される(写真はイメージです)

■たいへんです、社長!

ある食品会社の営業業務課のパソコンに1通のメールが届いた。消費者からの問い合わせメールだった。次のようなことが書いてあった。

スナック食品Xは今後どうなるのでしょうか。私はXが大好きで、週に2~3回はコンビニで買って食べています。もし販売中止になったらとてもがっかりです。1日も早い解決を希望します。


メールを見た担当者は怪訝な顔をした。Xは現在主力商品であり、出荷も売れ行きも好調なはずである。この問い合わせをしてきた消費者は何か勘違いしているのではないか。こう思ったが、念のためインターネットで「スナック食品 X」と入力して検索ボタンを押してみた。

すると驚いたことに、検索リストの最上位に「Xにこんなものが混じっていました!」との見出しが出ている。クリックするとツイッターの画面が開いた。スナック菓子の断面に細い針金片のようなものが埋まっている鮮明な画像がアップされている。担当者は口惜しさと憤りで頬を紅潮させた。なんでツイッターなんかにアップするんだよ。会社に直接連絡してくれれば穏便に済ませられたものを…。

取り急ぎ社長室に駆け込み、状況を説明した。ところが意外にも、社長はあまり驚いた様子はなかった。「いちいちネット上の悪口やいたずらに過剰反応していたら切りがない」と言った。「ひとまず形だけでも工場の衛生管理状況を点検し、わが社には何の落ち度もないことをホームページ上で発表しなさい。こんなこと今まで一度もなかったのに。世の中にはけしからん消費者もいるものだ」。

担当者は社長の指示通りに点検し、ホームページには「当工場に衛生管理上の問題は見つかりませんでした」と掲載した。ところがこの直後からネットは炎上し、これをかぎつけたマスメディアもウェブニュースに掲載し始めたのである。この結果、食品会社の売上も株価もみるみる間にダウンしてしまったのだった。

■風評被害「察知」のパターンはいろいろ

インターネットが介在する風評リスクは、いつ何時、あなたの会社でも発生するかわかりません。ネット上に広まる(とくにネガティブな)評判は、個人や一つの組織の力だけではとうていコントロールできない、意思を持った巨大な有機体のようなものです。がしかし、逆にたった一人の人間がとつぜん計り知れない大きな影響を作り出すのもまたインターネットなのです。

とは言え、しょせんネットは噂を広める「媒介」に過ぎません。そのうわさの根っこには、さまざまな事象を引き起こす物理的な原因や、あぶくのように湧いては消える人の思惑がひしめいていることも事実。風評被害のきっかけを作る原因やその影響を受けるルートが多種多様ならば、危機を「察知」するパターンもまた多種多様です。いくつか例を掲げてみましょう。

①異物混入、欠陥製品、顧客対応に関するクレーム

一般個人向け商品やサービスに多く見られるもので、商品やサービスに不満を持った消費者が、いきなりSNSに苦情をアップしてしまうケースです。多くの場合、企業が誠意ある対応を見せないから広く訴えたいのだ、という正義感が根底にあるのでしょうが、中には自分のSNSにどれだけユーザーが注目してくれるか、アクセスが増えるかが本音ということもあるからやっかいです。

②自然災害・伝染病の流行などに伴う自粛・回避ムード

業種的には観光ホテル・旅館業、娯楽施設、商店街などが影響を受けやすいものです。マスメディアは被害を受けたところだけを切り取って繰り返し報道しますから、消費者にそのイメージが広く浸透してしまうところに問題が生じます。熊本地震の影響をほとんど受けなかった大分県湯布院のある観光旅館は、予約の99%をキャンセルされて大打撃をこうむったと言われています。

③会社関係者による不祥事やいたずらの暴露と炎上

スマホであれパソコンであれ、朝から晩までネットを利用する習慣は、私たちの行為の良し悪しに対する判断力や常識的感覚をマヒさせてしまったようにも見えます。レストランの従業員が、たまたま店を訪れたタレントをスマホにとってSNS上で実況中継し、炎上して店の信用を損ねるのもその一つ。本人は匿名のつもりでSNSを楽しんでいるのでしょうが、一度炎上すれば匿名ではいられなくなるのがネットの怖さなのです。