全長6.3kmの巨大放水路が生命・財産を守る

巨大放水路の絶大効果

外郭放水路は昭和60年代(1985~89年1月)に基本構想が策定された。大落古利根川、倉松川、中川からの洪水を地下の放水路に取り込み、放水路下流端部の排水機場より江戸川へ排水する事業が立案された。

外郭放水路は「大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法」(大都市法)に基づく主要プロジェクトとしても位置づけられ、事業の積極推進が図られた。中川流域では待ったなしの治水効果が求められており、また大都市法でも10カ年で住宅や宅地供給の抜本的な施策の達成が強調されていた。

事業の緊急性を重視し事業期間の短縮を図る方針から、用地買収や他事業との調整が不可欠となる開水路(オープンカット)方式は避け、国道16号直下の地下トンネル開削よる放水路として計画が策定された。その背景の一つに、東京湾横断道路などの大規模シールド機(地下掘削機)によるトンネル開削の実績から大深度の大規模放水路トンネル施工も技術的に可能であると判断された土木技術の進歩があった。

外郭放水路は、中川など中小河川の洪水を地下に取り込み、地底50mを貫く総延長6.3kmのトンネルを通して江戸川にいち早く落とし込む。最先端の土木技術を駆使して、1993年3月に着工し13年をかけて2006年6月に大落古利根川(春日部市内、第5立坑)から江戸川までの通水が可能になった。総事業費2300億円のビッグプロジェクトであった。同放水路は地下河川であると同時に巨大な洪水調節池としての機能がある。世界最大級の地下放水路であり、一級河川に指定されている。放水路の完成により、「降れば洪水」であった埼玉県東部で水害が激減した。

ここに<地下神殿>が出現した。地下トンネルから流れ込む水の勢いを調整するための調圧水槽は、長さ177m、幅78mの広さがあり、59本の巨大なコンクリート柱が林立している。洪水防止のみを目的とすることから、通常時は水を取り込まず空堀状態(大空間を維持した状態)で、一般の人も立ち入ることができる。関東一の巨大な地下空間が出現した。

春日部市の庄和排水機場に併設された施設が「龍Q館」である。「龍」は、庄和地区に伝わる火伏の龍の伝説から、また「Q」はAQUA(水)から取っている。外郭放水路に関する資料や模型を展示しており、施設見学の集合場所にもなっている。

「龍Q館」は予約をすれば洪水時以外は一般見学できる。巨大な水槽内の空間に整然とエンタシスのような支柱が立ち並ぶ光景は静寂の中に荘厳さと神秘さを感じさせる。あたかも古代ギリシャの<神殿>のような雰囲気をかもし出している。コンサートをはじめ特撮テレビ番組や映画の撮影にも使用されて来た。見学ツアーが絶えないのである。(参考文献:国土交通省江戸川河川事務所資料、春日部市資料、続く)
 

(了)