金正男氏殺害が、マレーシアの日本企業にも影響を及ぼしそうだ(出典:Flicker)

全方位外交で北朝鮮とも国交

2017年2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で北朝鮮の金正男氏が殺害された事件は、数週間経った今でも、連日、新聞、テレビをにぎわせている状況です。この事件は、日本企業にはほとんど影響しないと思われがちですが、そうではありません。場合によっては、非常に大きな影響が出る可能性があります。それでは最初に、マレーシアの概要と特徴について見てみたいと思います。

マレーシアはマレー半島、ボルネオ島を中心とする領土を有し、面積は33万803k㎡でASEAN諸国(10カ国)中5番目となっています。人口は約3033万人(2015年)で、ASEANで6番目です。一方、経済規模は2015年のGDPが2962.84億ドルで、ASEANの中ではインドネシア、タイに次ぐ3番目、1人当たりのGDPは9500.52ドルで、同じくシンガポール、ブルネイに次ぐ3番目となっています。そのため、マレーシアは国土の割に人口が少ないが、国民の所得水準は高い部類に入っていると言えます。

民族構成はマレー系50.1%、中国系22.6%、先住民族8.0%、インド系6.7%、その他0.7%、市民権を有しない住民8.2%となっています。また、言語は公用語のマレーシア語(Bahasa Malaysia)の他、英語、中国語(広東語・北京語等)、タミール語、パンジャブ語、タイ語等と多様化しており、多民族国家と言えます。宗教は国教(政教一致ではない)であるイスラム教61.3%、仏教19.8%、キリスト教9.2%、ヒンズー教6.3%、在来系宗教1.3%、その他0.4%、無宗教0.8%、分類不可1.0%となっています(民族、言語、宗教は米国中央情報局のWorld Factbookより引用)。

政治体制は立憲君主制の連邦国家で、国家元首は国王ですが、国王は政府の助言に基づき行動しなければならないとされ、実権は首相及び内閣が有しています。国王は13州の内9州にいるスルタン(首長)による互選で選出(実質的には輪番制)され、任期は5年となっています。

外交的には旧宗主国の英国の他、日本、オーストラリア等と貿易を通じて密接な関係を維持している一方、隣国であるタイ、シンガポール、インドネシア等のASEAN諸国とも密接な関係を持っています。近年では、中国・韓国との関係も強化しており、イスラム教国であることから中東諸国との結びつきも強いと言えます。

マレーシアはASEANの原加盟国であり、外交姿勢も全方位的であると言えます。北朝鮮との国交も1973年6月30日に樹立され、その後も友好関係を維持し、2009年には、マレーシアは北朝鮮に査証なしで訪問出来ることとなりました(北朝鮮に査証なしで訪問できる国はマレーシアのみでしたが、この件を受け、現在は両国間における査証なし渡航が廃止されています)。また、2011年4月には、北朝鮮国営の高麗航空の定期便がクアラルンプール~平壌間で就航しました(現在は運航停止の状態)。

マレーシアは英国植民地時代から、ゴム・パームオイルのプランテーション、すず・鉄鉱石の採掘、原油・天然ガスの掘削等が盛んでしたが、1957年の独立後、工業化を推進し、経済発展を遂げました。その一方、経済発展の過程でマレー系住民と中国系住民との経済格差の問題が生じ、それに伴い、マレー系住民を優遇するブミプトラ政策が採用されました。1957~69年までの時期においては、この政策は比較的緩やかに実施されましたが、1969年の総選挙において、中国系野党が大躍進したのを契機として民族間暴動に発展したことから、1970年以降、ブミプトラ政策は強化されることとなりました。