2005年にニューオリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」では、人口の約80%が嵐がやってくる前に脱出したが、脱出しなかった20%の人たちの大部分は「それほどひどい嵐だとは思わなかった」と回答している。命を繋げる行動を起こすには“動機付け”が重要であるということの教訓といえる。

これらの生存への行動を阻む要因を排除するにはどうすればよいのだろうか? 我々一人ひとりが正しい知識と訓練を重ね“勇気の心”を持つことが唯一の解決策ではないかと筆者は思っている。避難行動や生存へのアクションを起こすことを躊躇してはならない。

最近は毎日のように小さな地震が頻発しており、「また地震か」というような“地震慣れ”の感覚が前述の“正常性バイアス”や“集団同調性バイアス”を増長させる。小さな地震も良い訓練の機会と捉え、読者の皆様には自らが率先して家族や職場の仲間をリードし、命を守るためのアクションを起こすための勇気あるリーダーシップを発揮してもらいたいと思っている。 

【被災時の心理的影響】

発災直後の衝撃的なフェーズを経過した後の被災者の精神的なダメージやストレス障害は、下記に掲げるさまざまな要因から起きる。

・被災者自身の個人的喪失(例:肉親や家族、知人の死、家屋の倒壊、職場の倒産等)
・近隣の方との共同作業(生活)によるストレス
・傷ついた家族、近隣住民、友人、同僚への手当て
・悲惨な光景を見ることによる心理的負担
・非日常的な慣れない生活・作業パターン
・安全・安心に対しての不安


このようなことが原因で起きる精神的なダメージは、生存者にとってごく自然な反応であることを理解する必要がある。自主防災組織やボランティアなどに従事している方々は、助ける側の立場として、生存者に長期間にわたり影響を与える精神的トラウマを自分のものとして引き受けてしまう傾向があるため、このような二次的な犠牲に陥らないためにもチームメンバーの精神的な影響を注意深く観察しなければならない。心理的ダメージを受けると、精神的・身体的に次のような兆候が見られる。

<精神的兆候>

・過覚醒(意識が過度にピリピリと敏感になりイライラしている状態)
・自分を責めたり、相手を非難する状態
・狭さく(無意識に自分自身の興味や関心をより狭い範囲に制限しようとする状態)
・進入(恐怖感のフラッシュバックや悪夢を体験する状態)
・無力感•孤独感・疎外感
・情緒不安定•悲しみ・落ち込み・うつ
・否定
・集中力欠如・記憶障害
・人間関係の争い・家族間の不仲

<身体的兆候>

・食欲不振
・頭痛・胸痛
・胃痛・吐き気
・過剰活動
・アルコール・薬物依存
・悪夢
・睡眠障害•疲労感・低エネルギー状態

■チームの安定

繰り返すようだが、災害対応は一人ではできない。あらゆる困難を乗り越え的確なオペレーションを実践するためには、チームとしての力を発揮しなければならないのだ。そのためにも、我々はチームの安定を考える必要がある。

災害が起きている緊急事態において“幸せ”とか“幸福”とか場違いな感覚を持たれる読者の方もいるかもしれないが、米国連邦危機管理局(FEMA)のミッションの中でも人々の幸福感について言及している。

災害対応に従事することにより受ける精神的なインパクトを軽減させるための措置は、被災前、被災中、被災後に渡って実施されなければならない。事前に心理的影響を予習することにより、起こりうるインパクトに対し処理することが容易となる。ストレスマネジメントを学び、感情のコントロールをチームとして意識的に実践することによりチームの安定に繋げるのである。

その第1歩として前述した精神的兆候と身体的兆候を事前に知ることが重要なのである。次に述べるのは精神的身体的ストレスの兆候を軽減さ・せるために積極的に取り組むべき対処法である。