荒川と隅田川を仕切る東京・北区の新岩淵水門(出典:Wikipedia)

成果は全国に波及か

試行運用に伴い参加機関から寄せられた意見はタイムラインの内容よりも運用方法に関するものが多かったという。運用方法の改訂点をみてみる。

1.情報伝達・共有手段は電子メールが主な手段だったが、電話やスマートフォンのサイト構築による方法を求められたため、手段について検討を行う。
2.就業時間外の対応を求められたため、各機関の災害対応担当者の携帯メールアドレスをメーリングリストに登録しておくなど就業時間外にも事務連絡が滞ることのないよう対処する。
3.タイムライン運用に伴う事務局の作業負担が大きいため負担軽減を図る必要があるのではないかという指摘を受け、作業簡素化について検討を行う。

机上演習の実施と結果を踏まえた改訂2015年度の出水期には、8つの台風に適用され最大72 時間前まで対応が整備された。そのため、対応を行っていなかった72 時間前から氾濫を示す0 時間までの荒川下流タイムライン(試行案)を模擬的に適用する机上演習を実施した。

演習には参加機関がすべて出席し、あるタイムライン時刻を設定し気象や河川情報が提供された上で、定められた時刻内に一定量のタイムラインを見直す形で進めた。

「住民避難」「避難行動要支援者」「交通の運行状況」に加えて、新たな検討テーマとして、家屋倒壊危険ゾーンに伴う防災行動の検討を行った。荒川下流における家屋倒壊危険ゾーンとは、河川堤防の決壊又は洪水氾濫流により、木造家屋の家屋倒壊の恐れがある区域であり、検討時点では未設定であった。だが当該するゾーン内では流速が早い又は浸水深が深いこと、氾濫が始まってからでは水平避難は難しいこと、主に木造家屋においては垂直避難も危険であって立退き避難が必要となることを前提条件として検討した。

荒川下流タイムライン(試行案)は北区・板橋区・足立区の3区それぞれに作成していたため、1つのタイムラインとしてまとめ上げる統合化の作業を進めている。その際、他区タイムラインで検討された結果を基に、事前防災行動項目の追加・改訂を行った。本格運用に向けて関係機関との調整が続くが、異常気象の続く今日いつ豪雨が襲ってくるかもしれない。

タイムラインについては、台風や低気圧の接近、外国で起きた地震で日本を襲う津波など、事前に発生が予測できる災害が主な対象であり、前兆なく起きる地震やゲリラ豪雨での活用は限定的だとの指摘がある。想定する現象が順番通りに起きるとは限らず、起きても予想した時間が前後することもある。タイムラインを踏まえた臨機応変な対応が必要不可欠であることは言うまでもない。

荒川下流河川事務所が中心となり荒川下流域をモデル地域として推進されているタイムラインの実践的成果は、全国の都道府県や市町村の防災対策にインパクトを与えることになろう。(本稿作成に当たり国交省荒川下流河川事務所のご協力と資料の提供を受けた。同事務所に感謝する)

(続く)