4月8日、福岡大学で開催された地区防災計画学会で発表する兵庫県立大学減災復興政策研究科教授の室﨑益輝氏

熊本地震では直接死が55人に対し、関連死が自殺も含めて166人でした。本来だったらこの166人は救える命。さらにみなし仮設や応急仮設に避難していた方などで孤立死してしまった方が14人も(※2017年4月12日現在)出てしまい、今後もっと出る可能性もあります。これは絶対に曖昧にしてはいけない数字です。

本来であればこれらの人は社会的なケアが受けられたはずで、ケアが受けられれば命を落とすことがなかったはずでした。しかし社会的なセーフティネットからこぼれ落ちてしまったことで適切なケアが受けられず、命を落としてしまった人たちが生まれ始めているのです。これから公営住宅に入ると引きこもりという形での孤立死が出てくるので、今しっかりしないと今後とんでもない数字が出てくる可能性も高いのです。

本来であれば、亡くなった方たち一人ひとりの状況を分析しなければいけませんが、個人情報その他の壁もあり、行政を含めてその分析には積極的ではありません。しかし原因が分からない限り次の関連死が防げず、特に孤立死に関しては徹底的に原因を追究しないと次の孤立死を防ぐことはできません。

みなし仮設…震災などで住居を失った被災者が、民間事業者の賃貸住宅を仮の住まいとして入居した場合に、その賃貸住宅を国や自治体が提供する「仮設住宅」(応急仮設住宅)に準じるものと見なすこと。また、そうした賃貸住宅や関連する制度。(出典:Weblio)

熊本県益城町内の仮設住宅。現在でも市内に4000人近い被災者が入居している。

関連死は「防ぎえた死(Preventable Death)」

現在は超高齢化社会なので、みなし仮設で1人暮らしの高齢者がとても多い。高齢者になればなるほど、コミュニティのネットワークから切り離されると全く見えなくなります。みなし仮設は空いている資源を活用できるという点では非常にプラスな制度ですが、その人たちをきちんと捉えられるシステムがなければ、誰がどこに行ったか全くわからなくなってしまうのです。

これは自らを責めることになりますが、何のために被災者台帳を作っているのだろうと考えてしまいます。本来であれば被災者一人ひとりのカルテとなる台帳を作り、全員の居場所を把握することで孤立死を防ぐケアをしなければいけません。

関連死にもさまざまな問題があります。基本的には避難生活そのものの暮らしの厳しさと、それが継続する時間の長さです。本来、災害救助法では避難所は原則として1週間となっています。それゆえに、できることなら災害が発生した次の日から仮設住宅を建てなければなりません。復興計画もなるべく早く作らねばなりません。現在はずるずると計画が遅れていて、時間の概念があいまいになっていることも関連死につながるのではないでしょうか。

また、病院や福祉施設の耐震化が遅れ、地震によって機能を果たせなくなり、新しい病院や施設に転院したりする過程で、30人近くの方が関連死しています。その意味でも、病院や福祉施設の耐震化は非常に大事だと思っています。

関連死は、「防ぎえた死(Preventable Death)」を防げなかったということで、災害後の対応の在り方を厳しく問いかけるものです。被災地には保健士や看護師によるボランタリーケアと住民によるコミュニティケアが必要なのですが、関連死や孤立死を防ぐためにはコミュニティによるケアが重要になります。

本来であれば、日本中どこに行っても元のコミュニティの人が移動した人を把握しケアするようなシステムがなければいけません。しかしバラバラになってしまった人をコミュニティがどのように捕捉してケアしていくかということは、事前の計画がないと難しいと考えています。孤立死を防ぐためには、このようなコミュニティケアのシステムをきちんと機能させなければいけないのです。

もちろん、直接死にも課題はありました。危険な家屋へ立ち戻ったところに2回目の地震が発生し、亡くなった方がいました。本来はそのような事態を防ぐための「応急危険度判定」だったのですが、余震や2次災害に対する警戒の弱さがあったのではないでしょうか。私たちが作った応急危険度判定ですが、もう一度見直さなければいけないと考えています。

地区防災計画はどうあるべきか

このような問題を解決するために重要なのが「地区防災計画」であると考えています。私自身、熊本地震では3つの教訓がありました。「地域コミュニティの重要性」「事前計画の必要性」そして最後は「ボトムアップ」です。これらは「地区防災計画」の根幹そのものです。

これまでは正直、まず何でもいいから作ってほしいと言っていましたが、これからは「作ればいい」というレベルではなく、「これだけはちゃんとやろう」という専門家によるアドバイスがもっと必要になると感じています。熊本でも素晴らしいコミュニティはたくさんありました。市内のとある小学校では震災の次の日から温かいお味噌汁が出ました。ほかの小学校では何日も冷たいおにぎりだけなのに、なぜ温かい食事を作れたのかというと、事前に話し合いをして計画を作っていたからです。地区防災計画でいうと、1週間分の避難所の献立計画を各町内できちんと作っておきましょうと言っています。

私は、地域コミュニティが主体的に防災に取り組む「ボトムアップ型」の防災が欠かせないと思っています。そのためには、以下の5つが重要です。

①    自衛性…公的支援がなくとも対応する
②    密着性…地域に根差した対応ができる
③    即応性…限られた時間内に対応できる
④    協働性…みんなで力を合わせて対応できる
⑤    内発性…それぞれの思いをつないで対応できる。


言い換えれば、「自立」「自助」「自治」「自尊」が大切です。自尊とは、自分たちのことを誇りに思うことです。誇りをもって、コミュニティをオペレーションしてほしいと思います。そのために、地区防災計画を作らなくてはいけないと思っています。

(了)