2017/04/26
防災・危機管理ニュース
「国際的な基準であるスフィア基準では、シェルター(避難所)の居住空間は最低限一人当たり3.5平方メートル。適切なプライバシーと安全が確保され、覆いがあり、天井までの高さは最低でも2メートルであることが条件とされる。スフィア基準はもともと地域紛争による難民問題に対応するために作られた基準なので災害時と事情が違うとは思うが、日本の避難所は1人当たりの面積も狭く、プライベートも確保できない。海外の専門家に「ソマリアの難民キャンプより状況が悪い」と言われても仕方がないのでは」と話すのは、アルピニストの野口健氏。NGO災害救援チーム フェニックス救援隊らが主催し、都内で21日に開催した「フェニックスみんなのボラ・セミナー」で講演した。
野口氏は2015年4月25日のネパール大地震時に現地入りしており、現地の惨状を間近に見たことから「野口健 ヒマラヤ大震災基金」を設立。家屋を失った村人たちが安心して家族単位で暮らせるよう、大型テントを村々に届けた。
そのほぼ1年後の16年4月14日に熊本地震が発生。発生当初は「1度に2つの被災地支援は無理だと考えた」という。しかし「熊本地震が発生した後、ヒマラヤのシェルパたちが僕に「日本人に恩返しをしたい」と言ってきた。この言葉にはっとし、熊本地震の支援をしようと心に決めた」と当時を振り返る。
テント村は、かねてから交流があった岡山県総社市の片岡聡一市長のサポートによって震災から10日後に誕生。100張以上のテントが約1か月半にわたり、およそ600人の生活を支えた。テント村を視察に来た海外の専門家たちは、「日本の避難所の状況はひどいが、このテント村のテントは中が広く、天井も高く、環境がいい。かなりの部分で国際基準を満たしている」と口を揃えたという。
野口氏は、「僕は山の専門家で、避難所の専門家ではない。テント村はもともとエベレストのベースキャンプをイメージした。なぜなら山におけるベースキャンプとは「標高5000メートルを超える過酷な状況において、いかにくつろぐ空間を作り上げるか」が大きなテーマ。僕たちはそれを長年追求してきた。もちろん避難所として活用するには賛否両論あったが、病気による緊急搬送が1人も出なかったなど良いことも多かった。もっと検証していけば理想的な避難所になるのでは」とテント村の避難所としての可能性に期待を込める。
「フェニックスみんなのボラ・セミナー」では、野口氏のほか語り部として宮城県女川町役場総務課長の阿部敏彦氏、熊本地震で被災した益城町広安西小学校校長の井出文雄氏らが講演したほか、被災地を「歌うこと」で元気づけた全盲のシンガーソングライター佐藤ひらりちゃんがさわやかな歌声を披露した。セミナーを主催したNGO災害救援チーム フェニックス救援隊代表理事の古川千春氏は、「ボランティアは『ご縁と善の循環』。少しでも多くの人に身近なものなってもらえば」と話している。
(了)
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方