2017/05/08
安心、それが最大の敵だ
「事前復興」と「脆弱性克服策」
山中氏は「事前復興」を提唱する。一般にはなじみの薄い言葉だが、災害研究の世界では一応市民権を得ているという。「事前復興」の用語法には3通りある。
2.「発災後、限られた時間内に復興に関する意思決定や組織の立ち上げを急ぐ必要がある。そこで、復興対象の手順の明確化、復興に関する基礎データの収集・確認などを事前に進めておくこと」こそ「事前復興」だという考え方である。「まさか」の時に備えて、企業が危機管理マニュアルを用意したり、保険に入ったりするのと似ている。つまり、ここでの「復興」はソフト系、知恵や教訓の伝承・集積の具現化を意味しているといえるだろう。
3. 山中氏が独自に主張している考えで、「個人、家庭、さらには地域の抱える脆弱性を見つけ、克服するための努力を積み重ねていくこと」と定義している。「例外状況は状態をあぶりだす」という。「例外状況」つまり災害はその社会の「常態」、病巣や脆弱性を顕在化させる。事前復興事業の策定作業は、その「常態」を見つけ、脆弱性を克服し、よりよき街づくりについて話し合うところに意味がある。「総合計画」や「都市計画」へのフィードバックも考えられる。BCPの作成にも寄与するだろう。
山中氏は結論づける。「<事前復興計画>は『精神力』ではなく『構想力』でなければならない。目標を関係者に共有できるメッセージが発信されなければならないのだ」。氏の鋭い指摘を国や地方自治体がどれだけ汲み入れることが出来るのだろうか。不安なしとは言えない。
(つづく)
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方