2013/03/25
誌面情報 vol36
ヤマト運輸
ヤマト運輸では、2012年9月、東海・東南海や首都直下地震など、今後各地で懸念される大規模地震に備え、災害時における初動対応の強化を目的とした安否確認訓練を実施した。全社を対象に、営業所のパート社員を含めた全従業員14万人が訓練に参加した。
「連携」が鍵
総合物流業の日々の業務は主に、全国にある営業所、仕分け所、主管支店、支店、支社、配送ドライバーの連携によって成り立っている。交通事故や渋滞など、普段から業務を妨げるリスクが取り巻く中、時間厳守の安定した配送が実現できるのは、これらの連携が柔軟に機能しているためだ。
この考え方は事業継続においても変わらない。ヤマト運輸のBCPでは、特定の地域が被災した場合、各支店や各営業所が、被災した地域の作業を肩代わりできる仕組みを構築することで事業継続を実現するように取り決めている。
製造業の場合、工場が被災したら生産が止まってしまうため、施設などのハード対策の強化に力を入れるが、物流業の事業継続には、物流ネットワークを組み直すための人員がどの拠点にどれだけいるのか、迅速な社員の安否確認が要となる。 このためヤマト運輸では東日本大震災以降、安否確認方法の改善に力を入れてきた。
安否確認システムは使わない
昨年9月に実施した大規模地震を想定とした全社対象の安否確認訓練は、事前に周知した予告形式で行われパート社員を含む合計14万人の社員が参加した。10支社を1日あたり3~4支社の全3グループに分け、各支社単位に用意した簡易な想定シナリオをもとに、9時に開始し、朝全員の確認がとれるまでの3日間に渡って行われた。
同社では、安否確認を実施するにあたり、大手企業を中心に広く採用されている安否確認システムの導入はしていない。このシステムの場合、災害発生時に一斉に安否確認メールを配信できるメリットはあるが、導入に際して各社員の携帯メールや携帯番号、固定電話番号など、複数の連絡先を登録する必要がある。パート社員を含め14万人に及ぶ社員を対象とした場合、連絡先の登録を拒む社員や登録を忘れる社員が想定される。社員の個人情報の保護の観点に加え、全員を漏れなく強制的に登録させることは難しいと考えた上での判断だ。
CSR推進部と人事総務部が協力して作成
安否確認システムを利用しない代わりに、今回の訓練で新たに同社の安否確認のツールとして取り入れたのが、緊急時の行動指針などを記載した災害ポケットカードだ。3つ折り式で、常時携帯できるように、財布や名刺入れに入るサイズに工夫されている。昨年8月に社員全員に配布し、このカードの行動指針に従って訓練を実施した。
災害ポケットカードの内容は、「緊急対応の行動指針」「災害発生時の行動」「業務中/公休日・夜間の避難場所」「緊急時の連絡先」で構成されている。
カードは、CSR推進部と人事総務部が協力して作成し、災害発生時における行動指針と安否報告方法の他にも、事故や事件が発生した際の社内通報先や社員のメンタルヘルスの相談窓口などCSRの観点から様々な情報を加えている。
同社CSR推進部社会貢献の坂本学課長は「手元にカードがないと、安否の連絡ができなくなってしまいます。普段からきちんと携帯してもらえるようなカードでなければいけません」と話す。
何十年に1回の地震対応に特化したカードでは、訓練や実際の震災時以外に開くことは稀だ。使用頻度が下がると持っていること自体を忘れたり、失くしてしまう恐れもある。同社では、カードが社員にできるだけ浸透するように、日常からも使えるよう幅広い情報を掲載する工夫をしている。
カードの「緊急対応の行動指針」の第一義には、あえて社員の人命最優先が記載されている。当然のことだが、輸送担当者の多くは、普段は単独か少数で荷物を運んでいる。災害が発生した際は、自分達だけで判断をしなければならない。「セールスドライバーは、日頃、荷物を安全に運ぶことを心掛けているため、災害が発生した時も、つい荷物に注意がいきがちです。東日本大震災後の物流業界に関する調査でも、車や荷物を守ろうとしたために、避難が遅れて被害にあった事例が確認されています。それゆえ安全確保の強調は重要です」と坂本氏は話す。さらにカードには、外出先、社内勤務中の2つの対応方法が記載されている。
安否報告については、それぞれ社員が所属する勤務地の各主管支店の人事担当者のメールアドレスが記載されている。このメールアドレスに、IDナンバー、名前、家族の安否、翌日の出勤予定などを送り、主管支店単位でまとめたものを各支社に伝え、その後本社で確認する。
基本的に、報告は社員側から会社側の一方通行で終える。
継続的に訓練を実施予定
訓練後、いくつかの課題が明らかとなった。開始直後に、メールの返信が集中したため、サーバーに負荷がかかり、メールの受信が遅れる不具合が確認された。また、海外出張中の社員や休暇中の社員からの連絡遅れなども見られた。
一方で、東日本大震災の教訓からか、東北支社からの返信が非常に早かったという。
坂本氏は「各社員が訓練を通して実際にどういう状況になるのかを実感することが大切」と話す。社員全員が安否報告の方法をできるようカードの浸透を徹底するために、継続的に訓練を実施する予定だという。
誌面情報 vol36の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方