ボディーストーミングで新しい訓練手法を開発してみよう

今回はシンシナティー市消防局が提唱するボディーストーミング（Body Storming）という訓練の手法を紹介したいと思います。「ブレインストーミング」と言えば脳を使い切るまでアイデアを出すことですが、「ボディーストーミング」は体を使えるだけ使って、体で考える訓練手法です。

具体的には、まず隊員全員で訓練のアイデアを考え、まずはやってみます。そして改善箇所を何度も話し合い、実際に訓練を繰り返して課題を解決し、さらに新しいアイディアを生み出していきます。ボディストーミングは実践的な訓練の創造開発法なのです。

下記のビデオをご覧下さい。今までにホースを使ったこういう救助法を見たことがありますか？

Cincinatti / Nance Drill（出典：Youtube）

脱出不能であるか、または緊急脱出が必要な隊員のホースを使った救助方法として、次の３つをビデオで紹介しています。

全ての訓練内容はビデオに収めてタイムを計り、休憩しながら映像を見て、改善案を持ち寄って、活かせそうなアイデアを皆でやっています。

どの訓練も、現場活動で使っている資機材を利用して、シンプルかつ迅速に助けることができるかが重要です。緊急脱出時は車両まで資機材を取りに行ったり、無線要請により持ってきてもらうことでは、間に合わないことがほとんどだからです。

上記のビデオの訓練シナリオミッションは「火災建物の屋根で消防隊員が排煙作業中に建物内に落下し、炎上中の内部からいち早く隊員を助けること。ただし、ケガはしておらず、ホースしか資機材がない」です。

１、 ホースを活用した意識のある消防隊員の救出方法手順
①  落下した消防隊員を確認後、すぐに指揮者に至急報発信。
②  筒先の付いたホース（50mmホース、圧力ノズル圧力3kg/ cm2）を落下した隊員へ渡す。
③  落下した隊員は、まず、脱出時、身の危険のある炎を消火し、余裕ホースを十分(約5m)に取った後、屋根上の隊員に筒先を渡す。届かないときには小綱などを利用。

④    落下隊員は上から降りている通水状態のホースをブランコ状に弛ませ、自分の腰部にある空気呼吸器の保護枠（プロテクター）に体重を掛けて緩みを取る。

⑤    両手でそれぞれにホースを掴み、引っ張るように合図する。
⑥    屋根上の隊員は両サイドから声を合わせてホースを同時に引っ張り、隊員を引き上げる。
⑦    引き上がった隊員の空気呼吸器ハーネスの肩バンドを掴んで、完全に屋根上に引っ張り上げる。なお、引き上げられる隊員は十分にあごを引いて頭を屋根材で打たないよう注意すること。また、ホースを持った手を屋根材に挟まないように気をつけること。

⑧   再度、他の隊員が落下しないように穴があることを他隊に伝える。

２、ウェビングを活用した意識のある消防隊員の救出方法手順
①  落下した消防隊員を確認後、すぐに指揮者に至急報発信。
②  筒先の付いたホース（50mmホース、圧力ノズル圧力3kg/ cm2）を落下した隊員へ渡す。
③  落下した隊員は、まず、脱出時、身の危険のある炎を消火する。
④  消火後、上から降りてきたウェビングまたは、ロープを落下した隊員は空気呼吸器の保護枠に掛ける。
⑤  両手でそれぞれにウェビングまたは、ロープを掴み、引っ張るように合図する。
⑥  屋根上の隊員は両サイドから、声を合わせて同時にウェビングまたは、ロープを引っ張り、隊員を引き上げる。
⑦  引き上がった隊員の空気呼吸器ハーネスの肩バンドを掴んで、完全に屋根上に引っ張り上げる。なお、引き上げられる隊員は十分にあごを引いて頭を屋根材で打たないよう注意すること。
⑧  再度、他の隊員が落下しないように穴があることを他隊に伝える。
 

３、    ホースを活用した意識のない消防隊員の救出方法
①    落下した消防隊員を確認後、すぐに指揮者に至急報発信。
②    救助隊員１名が筒先の付いたホース（50mmホース、圧力ノズル圧力3kg/ cm2）を降下して、落下した隊員救助へ向かう。

③    救助隊員はまず、脱出時に身の危険のある炎を消火した後、１線目は通水した状態で垂らしておく。

④    意識のない落下隊員の空気呼吸器ハーネスの腰バンドを外し、空気呼吸器がずれないよう股に装着する。

⑤    落下隊員の空気呼吸器の肩バンドを緩めて、通水していない２線目の筒先とホースを肩バンドに通した後、肩バンドを強く締めて、筒先を屋根上隊員に渡し、引っ張るように合図する。

⑥    落下隊員を引き上げた後、屋根上隊員は通水したホースと筒先を降ろす。

⑦    救助隊員は、上から降りてきた通水状態のホース出必要があれば消火作業を行った後、筒先を屋根上隊員に渡す。

⑧    通水状態のホースブランコ状に弛ませ、自分の腰部にある空気呼吸器の保護枠（プロテクター）に体重を掛けて緩みを取る。

⑨    屋根上の隊員は両サイドから声を合わせてホースを同時に引っ張り、救助隊員を引き上げる。
⑩    引き上がった隊員の空気呼吸器ハーネスの肩バンドを掴んで、完全に屋根上に引っ張り上げる。

⑪ 再度、他の隊員が落下しないように穴があることを他隊に伝える。

いかがでしたか？

なかなか、こういうユニークな訓練の発想は、普段からさまざまなオリジナルの救出法や消火活動戦術を考え、実行し、訓練していなければ浮かんでこないと思います。

ぜひ、皆さんも体を使ったBody Storming (ボディーストーミング)を活用し、思いついた様々な訓練手法をやってみて考えて、何度も話し合い、そして、また、やってみることを繰り返してみて下さい。

きっと訓練が愉しく、また、自分たちで考えた訓練成果を身につけることで消防活動の安全度も高まり、公務災害や殉職率を減らすことにもなると思います。

それでは、また。

（※なお、今回ご紹介した訓練手法はオハイオ州コロンバス市消防局で殉職したJohn Nance氏の消火活動中の転落事故の経験を無駄にしないよう、事故予防のための訓練にして活かし、未来の消防士のために還す目的で作成されています。故John　Nance氏のご冥福を心からお祈り申し上げます。）

---

一般社団法人 日本防災教育訓練センター
代表理事 サニー カミヤ
http://irescue.jp

(了)