EUの行政執行機関にあたる欧州委員会(出典:Flickr)

日本企業に与える影響

欧州において右傾化が進展した場合に、現地に進出している日本企業への影響としては、下記のような影響が想定されます。

1.政治状況の変化に伴う問題
欧州における大衆迎合的な政策・主張への一般市民の支持の拡大等、右傾化がもたらす影響は、政治・経済・社会の全般に大きな影響を与える可能性があります。日本貿易振興機構(JETRO)が2016年12月に発表した「欧州進出日系企業実態調査」(以下「実態調査」)でも、経営上の課題として、前年第4位の「欧州の政治・社会情勢」(47.9%)が最大となりました。

この背景には、2016年6月の英国のEU離脱の国民投票の結果からEUの今後についての懸念、さらに移民排斥等の問題に関連し、政治状況が流動的となっているとの懸念を読み取ることができます。テロの頻発等による経済的な問題の他、物流の途絶等の影響も懸念されることも挙げられます。

また、実態調査では、「不安定な為替変動」(47.8%)も前年第5位から第2位に浮上しました。これも英国のEU離脱の国民投票の結果が大きく影響していると言えます。

2.サプライチェーンの問題
欧州は比較的自然災害が少なく、これまであまり物流の面で問題は少ない状況でした。特に、EU域内の物流は通関も不要であり、比較的スムーズでしたが、昨今のテロの頻発等、物流途絶の問題への関心が高まっています。実態調査でも、第6位に「治安(テロなど)」(34.2%)が入っていることからも、日本企業の関心が高まっていると言えます。

3.賃金コストの上昇
EUは全体的に失業率が高いものの、今後さらに右傾化が進展した場合、外国人労働者への規制が強化される可能性が高い状況です。そのため、賃金コストが相対的に上昇する可能性が高いと言えます。

実体調査においても、「労働コストの高さ」(41.2)が第4位にランクされており、現状でも高い労働コストが更に上昇する可能性が高いと言えます。

4.採用難
相対的に失業率が低いドイツ等では、外国人労働者が減少する可能性があり、その場合、採用難となることが想定されます。実態調査においても、ドイツでは「人材の確保」(58.5%)が現状においても第1位となっており、今後、外国人労働者が減少する等の影響が甚大であると言えます。

5.労務管理上の問題点
現状においても、ドイツ、フランス、イタリア等においては、労働者保護の色彩が強い法体系となっており、現地事業の再編に伴う従業員の解雇等は非常に困難な状況です。

今後、右傾化が進んだ場合、更に、労働者保護の色彩の強い政策がとられた場合には、影響は甚大であると言えます。

(了)