危険物・テロ災害現場に遭遇した時は、適切な行動を取らなければ生命が危険にさらされてしまう
(※画像はイメージです。出典:Pixabay)

前回の連載では“危険物/テロ災害”として、危険物、テロの定義・種類とそれらの認識について解説した。

【第8章】 危険物/テロ災害対応(1)(前編)
【第8章】 危険物/テロ災害対応(1)(後編)

今回の連載では一般市民や従業員が危険物災害やテロ災害に遭遇した際に、どのように物質を特定し、防護行動を取ればよいのかを中心に解説する。

【危険物質の特定】

第8章前編でも少し触れたNFPA472(危険物・大量破壊兵器災害対応要員能力適正基準)では、2008年以降の改訂で、危険物・テロ災害の「第一発見者」或は「第一現着者」となり得る一般市民や一般企業にも危険物質を特定するための教育が行われている。

NFPA472では、危険物・テロ災害対応にあたる人員や要員を対応レベルに分けており、その中でも一般市民や一般企業の人員をアウェアネス・レベルとしており、アウェアネス・レベルの対応者は、危険物/大量破壊兵器による事故が発生しているという事を認知し、発生直後から適切な通報を実施し、訓練されたレスポンダーが現場に到着するまでの間に、周辺の関係者へ危険を周知し、所持しているERG(危険物・テロ災害初動対応ガイドブック)などの情報源を元に人命・財産・環境の保全措置を講ずることが求められている。

つまり、一般市民といえども正しい防護行動を取るためには、当該事案に対してどのような物質が関連しているのかを特定するための理論武装が必要になるということである。今回の連載では、その一部を紹介する。

■容器の種類から特定する方法

危険物はさまざまな形態の容器に貯蔵・保管されており、物質によってその形状や材質が異なることから、容器の特徴を学ぶことが物質を特定する手掛かりになる。輸送する際の列車やタンクローリー車(消防法では移動タンク貯蔵所という)なども物質の種類により形状に共通した特徴がある。

■危険物質の表示方法(マーキングシステム)から特定する方法

国内では消防法、労働安全衛生法、化審法(化学物質の審査および製造等の規制に関する法律)、毒物および劇物、取締法、高圧ガス保安法、火薬類取締法、船舶安全法、JISなどにより危険物の保管時、輸送時におけるラベル表示が義務付けてられているが、海外から輸入されている危険物のマーキングシステムと整合性が取れていないものもあるため、最近では「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)を参考に国際標準に合わせようとする」動きもある。しかし、危険物災害はいつ発生するか予測困難なので、我々は現存しているあらゆるマーキングシステムに精通する必要がある。米国では主にDOT(運輸省)の定めているプラカード、ラベル、マーキングを元に危険物の特定をしたり、他にもNFPA704システムや米国およびカナダ軍が使っているシンボルを根拠に物質の特定をしている。いずれにせよ、この分野においても国際基準に適合させた標準化が早急に図られるべきである。

■安全性データシート(SDS)から特定する方法

SDS(SafetyDataSheet:安全データシート)制度とは、事業者による化学物質の適切な管理の改善を促進するため、化管法(化学物質排出把握管理促進法)で指定された「化学物質又はそれを含有する製品」を他の事業者に譲渡または提供する際に、SDSにより、その化学品の特性および取扱いに関する情報を事前に提供することを義務づけ、ラベルによる表示を推進する制度だ。 

取引先の事業者からSDSの提供を受けることにより、事業者は自らが使用する化学品について必要な情報を入手し、化学品の適切な管理に役立てることをねらいとしている。国内では2011年度までは一般的に「MSDS(Material Safety Data Sheet:化学物質等安全データシート)と呼ばれていたが、国際整合の観点から、GHSで定義されている「SDS」に統一された。SDSには物質のID番号をはじめ、危険性やばく露指数、その対処方法を含んだ詳細な情報が16項目ほど記載されている。

■容器イエローカードから特定

陸上輸送において、混載便や小容量を容器輸送する場合、容器・包装品につけるラベルに、国連番号および指針番号を追加表示したものを「容器イエローカード」と呼んでいる。指針番号は「緊急時応急措置指針」(日本化学工業協会編集)に国連番号に対応する形式で記載されている。「緊急時応急措置指針」は、日本規格協会から2014年3月20日に改訂第4版が発行されているが、後述する指針のオリジナルとなっている、米国およびカナダ運輸省から出ているEmergency Response Guidebook 2016年度版に記載されているオレンジページ中の安全距離に関する項目やグリーンページ(初期隔離距離や風下警戒区域など安全距離を記載)は割愛されている。