ロンドン始め欧州で頻発するテロの背景には移民増や経済低迷など様々な要因がある(出典:Flickr)

先月(2017年5月)22日、英国・マンチェスターのアリーナで、23人が死亡し、119人が負傷する自爆テロ事件が発生しました。また、今月(2017年6月)3日には、英国・ロンドン橋の歩道を車両が暴走。乗っていた犯人3人が近くの飲食店等に押し入りナイフで利用客を襲撃する事件が発生し、犯人3人を含め11人が死亡、48人が負傷しました。19日には同じくロンドン北部のフィンズベリー・パーク・モスク付近の人の列に車が突っ込み、1人が死亡、10人が負傷する事件も起こっています。このように近年、欧州においてテロが頻発している状況です。下記は欧州で発生した主なテロ事件の一覧となります(死亡者数/負傷者数)。

・2010年12月11日:スウェーデン・ストックホルム自爆テロ事件(1/2)
・2011年3月2日:ドイツ・フランクフルト空港銃乱射事件(2/2)
・2012年7月18日:ブルガリア・ブルガス・バス自爆テロ事件(7/32)
・2014年5月24日:ベルギー・ブラッセル・ユダヤ博物館襲撃(4/0)
・2015年1月7~9日:フランス・パリ・週刊誌本社襲撃テロ事件(20/22)
・2015年2月14~15日:デンマーク・コペンハーゲン連続襲撃テロ事件(3/5)
・2015年11月13~14日:フランス・パリ同時多発テロ事件(137/368)
・2016年3月22日:ベルギー・ブラッセル同時多発テロ事件(35/340)
・2016年7月14日:フランス・ニース・トラック暴走テロ事件(87/434)
・2016年12月19日:ドイツ・ベルリン・トラック暴走テロ事件(12/56)
・2017年3月22日:英国・ロンドン・ウェストミンスター襲撃テロ事件(6/49)
・2017年4月7日:スウェーデン・ストックホルム・トラック暴走テロ事件(4/15)
・2017年4月20日:フランス・パリ・シャンゼリゼ襲撃テロ事件(2/3)
・2017年5月22日:英国・マンチェスターアリーナ自爆テロ事件(23/119)
・2017年6月3日:英国・ロンドン・ロンドン橋襲撃テロ事件(11/48)
・2017年6月6日:フランス・パリ・ノートルダム寺院襲撃テロ事件(0/2)

・2017年6月19日:英国・ロンドン・フィンズベリー・パーク・モスク襲撃事件(1/10)

この欧州でのテロ事件頻発の背景としては、下記のような要因を挙げることができます。

1.欧州全体の高い移民比率

EU28カ国の人口は約5億515万人となっていますが、そのうち、2015年1月1日現在で、外国人居住者数は8797万4956人に達し、EU全体の人口の17.4%(外国籍の居住者数3514万213人で7.0%、外国で出生した人の居住者数5283万4743人で10.5%)を占めており、外国人居住者が非常に多いという特徴があります。

これら多くの外国人居住者の社会的、経済的地位は決して高いとは言えないため、外国人居住者さらにはその子ども、孫の世代を含め、社会に対する不満がうっ積する傾向が強いとされています。そのことが、テロ等を許容する下地となっているとも言われています。

2.イスラム教徒比率の拡大傾向

欧州の宗教別人口では、プロテスタント、カトリック等のキリスト教が大部分を占めていますが、イスラム教徒比率も非常に高いという特徴があります。Pew Research Centerが2015年4月に発表した報告書によれば、2010年の欧州全体のイスラム人口は4347万人で全体の5.9%を占めていますが、2050年には7087万人に達し、全体の10.2%にまで拡大するとされています。

さらに2015年にはシリア等におけるIS(イスラム国)の活動に関連し、数多くの難民が欧州に向かい、欧州難民危機が発生しました。EUの下部組織である欧州対外国境管理協力機関(Frontex)が2017年5月に発表したデータによれば、欧州への不法移民の数は2014年が28万3175人でしたが、2015年には182万2260人に達し、その後EUとトルコとの協定により状況は改善されたものの、2016年も50万248人に達している状況です。

これら移民の多くがイスラム教徒であることから、今後のイスラム教徒人口の増加を助長する可能性が極めて高いと言えます。当然ながらほとんどのイスラム教徒は穏健で平和的ですが、過激なイスラム原理主義に傾倒する比率がほんの一部であったとしても、それなりの絶対数が存在するのも事実です。このことも、テロの増加を助長する要素となっています。(ちなみに神の前の平等という点が明確なイスラム教へ改宗するケースも増加しています。英国BBCによれば、英国内で2001~11年にかけて、10万人がキリスト教からイスラム教に改宗したとされています。また、フランスでは最近数年間で7万人以上、ドイツも最近数年間で2万人以上がキリスト教からイスラム教に改宗したと言われています)

3.EU経済の低迷と失業率の上昇

2005~15年にかけては2008年および2009年において、一時的に世界経済はGDPベースでマイナス成長となりましたが、通期での世界経済の平均成長率は+3.85%となりました。これに対し、EU28カ国の2005~15年の平均成長率は+0.9%に低迷しています。特にギリシャ、イタリア、ポルトガルは、この期間平均でマイナス成長となっている状況です。また、2008年からのリーマンショック、2010年以降のギリシャ経済危機、その後のスペイン、ポルトガル等への危機の連鎖等もあり、EU全体では経済的には低迷しているとも言えます。

EU全体での失業率は2000年以降、9%台で推移しましたがその後、漸減し、リーマンショック前の2008年に7.0%にまで低下しました。しかしながら、リーマンショックの影響、さらに2010年以降はギリシャ経済危機、その後の欧州への波及等の影響から、失業率が上昇傾向となり2013年には10.9%にまで上昇しました(特にギリシャでは27.5%、スペイン26.1%、ポルトガル16.4%にまで上昇)。ちなみに、2000年1月から2017年2月までのEU28カ国の平均失業率は9.1%となっていますが、この数値は米国の6.21%(2000年~16年平均)、日本の4.39%(2000年~16年平均)と比べても、非常に高いことが分かります。

欧州の場合、この失業率の問題は若い世代ではさらに深刻となっています。既述の通り、2000年1月から2017年2月までのEU28カ国の平均失業率は9.1%となっていますが、25歳以下に限ると19.7%にまで達している状況です。(例えば、2000年2月から2017年2月までのフランスの全体の失業率の平均は9.2%ですが、25歳以下では22.4%にまで達しています)

これら失業率の上昇は低所得層が多い外国人居住者数には、それ程の影響はないと言われていますが、一般市民の間では外国人居住者が雇用を奪っているとの認識が広がっており、そのことが右傾化を助長し、それが外国人居住者の不満を鬱積させることにつながっていると言えます。

4.欧州各国での右傾化の進展

2017年6月14日に掲載された「欧州の右傾化が日本企業に与える影響」をご参照下さい。

5.Homegrown Terrorist/Lone Wolf Terroristが発生する土壌

2017年2月1日付「2017年グローバルリスク予測【9/10】Homegrown Terrorist/Lone Wolf Terroristによるテロの増大」をご参照下さい。

6.ISの各同地域の縮小に伴いIS帰還兵によるテロの可能性の拡大

イスラム国(IS)は2014年6月に国家樹立を宣言し、イラク・シリアにまたがる広大な領域を実質的に支配しました。それに対し、イラク軍は2016年10月からISの最重要拠点のひとつであるモスルの奪還作戦を開始し、現在では、ほぼ一部の地区を除き、奪還作戦は成功しています。

また、イラク・シリアのIS支配地域に対し、イラク軍の他、スンニー派民兵、シーア派民兵、クルド人勢力等が奪還作戦を展開中です。さらに米軍主導の有志連合が空爆を続けており、ISの支配地域は大幅に縮小しています。2017年6月には、クルド人勢力がISの首都とされるラッカの奪還作戦を開始したことも報じられており、ISは大きな正念場を迎えているとされています。このような状況の中で、IS系のウェブサイトでは盛んに、欧米諸国でのテロを勧奨するような情報を流しており、それらのことがテロの頻発を助長していると言われています。

さらにISの衰退に伴い懸念されるのが、現在ISに参加している欧米各国からの参加者が本国に帰還することです。1979~1989年にかけての旧ソ連によるアフガニスタン侵攻において、世界各地のイスラム教徒が義勇兵(ムジャヒディーン)として参戦し、その後帰国した帰還兵が世界各地でイスラム原理主義テロ組織の基礎を形成したとされています。現在、欧州からISに参加している人数は、オーストラリアにあるシンクタンク(Institute for Economics and Peace)が発表した「Global Terrorism Index 2015」(2015年11月)によれば、下記の通りとなっています。

・フランス 1800人
・ドイツ 700人
・英国 600人
・ベルギー 440人
・スウェーデン 250~300人
・オランダ 200~250人
・オーストリア 100~150人
・デンマーク 100~150人
・スペイン 50~100人
・イタリア 80人
・フィンランド 50~70人
・ノルウェー 60人

実際、2014年5月24日にベルギー・ブラッセルのユダヤ博物館で発生した襲撃テロでは、シリアに渡航してISの活動に参加していたフランス人が実行犯として特定されています。また2017年4月20日にフランス・パリのシャンゼリゼ通りで、警察官が襲撃されたテロ事件でも、実行犯がISの活動に参加していたと言われており、Homegrown Terrorist/Lone Wolf Terrorist以外にも、ISへ参加し、その後帰還した者によるテロも増加する可能性が高いと言えます。

7.その他(欧州における政治的イベント・ラマダン等)

2017年5月27日から6月25日にかけて、イスラム暦の断食月(ラマダン:最終的に各国のイスラム教指導者が判断するため、国によって1~2日前後する場合もあります)がはじまり、IS等がこの期間のテロ活動を扇動しているとも言われており、今後も頻発する可能性が高いと言えます。

また、今年は欧州において選挙等の政治的イベントが目白押しであることも、テロ活動の活発化を助長しているとも言えます。

上記のうち、7は短期的な要因ですが、1~6は今後も長期的に継続する要因です。このことは今後も欧州において、テロが頻発、増加する可能性が非常に高いことを意味していることに留意が必要です。

(了)