石垣空港（旧）の保安検査場　（出典：Wikipedia）

先月の連載では、空港での保安検査における責任主体が日本においては航空会社であり、彼らが負担するコストと労力についてお話をしました。今月は、航空会社と契約し空港の保安検査場でボディチェックや荷物検査を行っている保安検査員について説明します。

日本の保安検査員は2つの組織に管理されている？

警備員の朝礼の様子（出典：wikipedia）

航空機への搭乗時、私たちは航空会社との約束事である運送約款を守る義務があります。その中で「旅客は、官公署、空港係員又は会社による保安検査を受けなければならない（第11条(B)(1)）」と述べられています。

さらに、保安検査は国土交通省が定めている航空法によってハイジャックやテロの未然防止のために確実に実施されることになっていますので、これらのルールに従って、各国の空港では厳しい保安検査が行われています。

航空局からの指示により、セキュリティ機器を使用しながら空港内の保安検査場で旅客や荷物の確認を行うのは日本では保安検査員の役割です。保安検査員の存在が、ハイジャックやテロの抑止効果の一端を担っています。正式名称は空港保安検査警備員、民間の航空機が運航しているほとんどの空港に保安検査員が配置されています。

日本では各空港の保安検査業務は航空会社が警備会社に委託しています。そのため、保安検査場にいる保安検査員は民間警備会社の警備員ということになります。警備員の立場では、警察庁が定める警備業法や警備業法施行規則に従って任務に当たり、保安検査員の立場では、国土交通省が制定している航空法や航空法施行規則から学び現場へ出る必要があります。

つまり、保安検査員は国土交通省と警察庁という２つの組織によって管理されていることになります。そのため警備員教育の教育時間中に、当該業務である空港保安警備についての教育を受けることが義務付けられており、保安検査員は航空保安体制やテロ・ハイジャック防止業務、危険物や不審物・不審者の見分け方、乗客への接遇などの保安検査場での保安検査業務についての教育も受けることになっています。

繰り広げられる旅客との攻防

今日、機内持ち込み制限品や持ち込み禁止品は細かく分類され、保安検査で発見しなければならないモノが多岐にわたっています。保安検査の方法も複雑になり、保安検査の対象も広がっています。オーバーコート、パーソナルコンピューター、厚底靴やブーツ、飲料や化粧水などの液体、プリンや漬物といった食品まで確実に検査することが保安検査員に要求されています。旅客にとっては旅行のたびに厳しくチェックされることになり、持ち込み不可の物件はその場で放棄扱いとなるため、旅客と保安検査員との間では品物について「放棄する・しない」の攻防が起こります。

旅客は“こっちはお客さまだぞ”という意識で搭乗しようとしているのに、保安検査場では“不審点”を徹底的にチェックされ、さらに持ち物の放棄までさせられます。“私が怪しいとでもいうのか”ということになることも多く、事実、どの空港でも保安検査場でのトラブルが発生しています。トラブルを引き起こす旅客であっても、わがまま放題のモンスターパッセンジャー（あえてこう表現します）であっても、航空会社にとっては多くの航空会社の中から自社便を選択し搭乗してくれるお客様であることに変わりはありません。

そのため、航空会社や保安検査員は、理不尽と思われる要求やクレームにも可能な限り対応することを心掛けます。中には「客なのだから、サービスを受ける権利がある」と考え、強引に自身のエゴを通そうとするまさにモンスターが時々います。不運にもそんな旅客に当たった保安検査員は、公衆の面前で旅客に怒鳴りちらされることもあります。その場合、さらに手厚く対応し、懇切に説明し、旅客に保安検査の重要性を理解してもらおうとします。保安検査員側の接遇に問題があり、旅客が怒ることもありますが、それはまれなことです。保安検査員がこれほど丁寧に旅客へ接する国は、世界的にみても日本以外にないのではと思います。

誰のための、何のための保安検査？

検査拒否やクレームをつける旅客が、時に保安検査場や航空機内で傷害事件や暴力事件を起こすこともあります。こうしたモンスターパッセンジャーは、航空会社の保安担当者や現場の保安検査員にとって頭痛の種になっています。日本の空港における保安検査は、航空会社に委託された民間の警備会社が、旅客の協力を得て任意で行うものです。警察とは異なり、なんの権限も持たない民間会社の保安検査員が旅客に強制的に検査を実施することはできません。

身体を触られて、荷物を開けられる保安検査は誰にとっても気持ちの良いものではありません。しかし、考えてみてください。空港での保安検査は、いったい何のために誰のために行われているのでしょうか？すべては搭乗する旅客、私たちの安全のためです。

次回は、日本とは全く異なる海外の保安検査の状況について、特に連邦政府の絶対的な権限を持って保安検査を行っている米国の保安検査員についてお話しします。ご意見・ご感想をお待ちしております。

（了）