荒川区の整備後の木密地域(提供:高崎氏)

東京都の<不燃化特区>

事態は深刻である。東京都は木密地域の抜本的解消に重点的・集中的に取り組んでいる。取り組みを一層加速化させなければならない。<火事と喧嘩は江戸の恥!>である。

都は2011年に策定した新都市戦略「2020年の東京」において、8つの目標と、それを達成するための12のプロジェクトを掲げた。「木密地域不燃化10年プロジェクト」は12のプロジェクトの中の最重要施策の一つである。防災上危険な木密地域(東京都が独自に定める整備地域7000ha)を「燃え広がらない・燃えないまち」にする。そのため整備地域において①主要な都市計画道路の整備率100%(2010年度で概ね50%)、②延焼による焼失ゼロ(不燃領域率70%、2006年度で56%)を2020年(東京オリンピック・パラリンピックの年)までに達成することにしている。具体的には3つの柱がある。

1.不燃化推進特定整備地区(不燃化特区)の推進
都と区が連携して不燃化を強力に推進。区から申請を受け都が地区指定・整備プログラム認定・特別支援を実施。53地区、3100haを指定。支援策として住宅の建て替え時の不燃化助成の上乗せ、都税の減免、種地(事業実施のきっかけとなる土地)としての都有地の提供、事業執行体制確保のための支援等がある。
2.特定整備道路の整備
市街地の延焼を遮断し、避難や救援活動の空間ともなる、防災上効果の高い都市計画道路を特定整備路線として28区間指定。2020年までに都が100%整備を目指している。地権者に対して生活再建等のための特別支援を実施。約26kmを指定。
3.木密地域の住民への不燃化への働きかけ等
地域密着型集会の開催による防災まちづくりの機運を醸成。

URの荒川区での密集市街地事業

都市再生機構(UR)は、国の防災政策と連動して都市の防災機能の向上と密集市街地の改善に積極的に取り組んでいる。不燃化特区においても、都や区と協力しながら事業を推進し、地区の特色に応じた手法を組み合わせて総合的取組を展開している。都内での成功例も少なくない。

URが手掛ける不燃化特区の代表例の一つが「荒川二・四・七丁目地区」である。荒川区が主体となった防災まちづくりに、東京都の特定整備路線やURの総合的地域開発が加わり、協力しあって不燃化事業が推進されている。

UR職員の案内で、荒川二・四・七丁目地区を訪ねた。同地区は東京メトロ千代田線町屋駅周辺から南に広がる48.5haの典型的な下町である。大正後期から昭和初期にかけての急速な市街化により、木造住宅と工場の混在する密集市街地が形成された。戦災で焼け残った民家もなお見られる。都市計画が進まず、建物は老朽化のままの状態。古い民家が肩を並べ、ヒト一人がやっと通れる路地も少なくない。一旦火の手が上がったらと思うと、背筋が寒くなる。

事実、東京都の調査による地震に関する地域危険度では危険性の高い地域に位置付けられている。地区内の建物約2万4002棟のうち、築30年以上の木造建物が40.2%を占める(2015年時点)。その主な要因には、高齢化、経済的負担、狭小な敷地や抜けられない路地等があり、空き家も少なくない。それだけに地元自治会の危険度自覚と防災意識は高いようだ。戸建て住宅の軒先での防火バケツの常備や、地元組織による防災活動等も行われている。

荒川区のまちづくりでは、1.老朽木造建築物の建替えによる耐震化・不燃化2.道路拡幅や空地確保-が急務とされている。同地区は2013年に不燃化特区の先行実施地区に指定され、2020年までに地区内の不燃領域率(東京都方式)を58.4%(2011年末)から70%にまで引き上げることを目標にすえ、古い住宅の建て替えや不燃化を推進している。
                      
同地区における、不燃化推進の主な事業と東京都・荒川区・UR・地元自治会などの連携ぶりを見てみよう。

〇主要生活道路の拡幅整備
荒川区が主要生活道路を6mへ拡幅整備する。補助90号線と沿道の延焼遮断帯形成とを併せ、地区の東側にある広域避難場所「荒川自然公園一帯」への避難経路を確保することを目的とする。
<連携>URが受託して権利者折衝等を支援しているほか、木密地区不燃化促進事業を活用した残地の買い取りや代替地提供、従前居住者用賃貸住宅との連携により地域整備を促進している。
〇複合施設の整備
荒川区が工場跡地を取得し新図書館を含む複合施設を整備した。土地の一部は防災広場や代替地としても活用。旧図書館敷地は移転後に公園として整備する。
〇従前居住者用賃貸住宅(2015年竣工)
<連携>URが荒川区の要請のもと土地を取得し、従前居住者用賃貸住宅を建設した。荒川区の密集事業の進捗に合わせ、移転を余儀なくされる住宅困窮者の受け皿として必要な戸数分を荒川区が借り上げ、住宅困窮者に提供している。残り戸数は定期借家のUR賃貸住宅として活用している。
〇老朽木造建築物の除去推進
荒川区では2014年から「危険老朽建築物の除却費助成」(100%助成)、「危険老朽木造住宅の寄付除却」(荒川区による除却)の制度を設けており2015年までに地区内17件の除却実績を上げている。
<連携>地区内の空き家対策については、荒川区とURで協力して戸別に意向を確認し、荒川区の除却の制度やURの木密地域不燃化促進事業による土地取得のメニューも選択肢として示し働きかけている。
〇公園等整備
荒川区は不燃化促進に必要な適切な土地の取得や事業の残地等を活用し、公園や広場を整備している。
<連携>移転予定の荒川図書館の跡地を活用し公園の整備を行う。公園計画は、地元の「防災まちづくりの会」を中心とした住民参加型で進めている。公園整備を通じて地域の環境改善を図るのである。
〇木密エリア不燃化促進事業
<連携>URは荒川区や東京都の道路整備や老朽建築物除却において、移転・売却を希望する住民からの土地取得と地区内移転を希望する住民への代替地提供の両面から事業推進に寄与している。
〇防災まちづくり活動
荒川二・四・七丁目地区内には19の町会がある。2005年度に町会間を繋ぐ「防災まちづくりの会」が発足し、定期的協議会を開催し講演会、体験・見学会、ワークショップを行っている。
<連携>荒川区とURが運営支援をしており、防災まちづくりに向けた行政と民間を繋ぐ情報共有と協働の窓口機能にもなっている。

「荒川二・四・七防災まちづくりの会」が、行政と民間の定期的な情報共有の場となり協働体制の確立に寄与している。老朽化住宅の建替えの動機づけにおいても、安全への投資という一面だけでは説得力に欠け、暮らしやすさ、健康、生き甲斐等、生活の総合的な期待感が鍵となっている。これまでのまちづくり分野にとどまらない、福祉、環境、新ビジネス等広い分野のアプローチが有効となる。荒川二・四・七丁目地区では、不燃化特区が力強い後押しとなって行政機関(都や区)が繋がり、地元も一体化しURも総合的に支援して相乗効果を生んでいる。都市再開発の好例でもあろう。

参考文献:論文「密集市街地改善のための多様な主体・手法の連携に向けて~荒川二・四・七丁目地区~」[独立行政法人都市再生機構(UR)密集市街地整備部中山裕子様、2016年11月開催のアーバン・インフラ・テクノロジー推進会議で発表。同論文からの引用をお許しくださった中山様に感謝します]。国土交通省や東京都の公表資料。

(つづく)