『プルーフ ・オブ ・ライ フ』 Proof of Life

地震、洪水、政治闘争、強盗、テロリズム…。 日常生活では一生に一回経験するかしないかのリスクも、 映画の中では、 日常茶飯事の出来事。アメリカでは、 映画シナリオライターが企業や自治体の BCP 訓練の被災シナリオを書くこともあります。 視点を変えれば、 映画は楽しむためだけのものでなく、 リスク管理の教材にも成り得ます。海外駐在員の誘拐をテーマにした 『プルーフ・ オブ・ ライフ』(2000 年製作) は、 ニューヨーク同時多発テロやアルジェリアテロ事件後の今見ると、決して映画の中だけの話ではなく、企業にとって “今そこにある危機” のように思えるのです。

 

<あらすじ>
アメリカ人のダム建設技師ピーター・ボーマン (デイビット・モース) が南米テカラ (架空国家) で反政府ゲリラに誘拐された。 ロンドンのK&R (誘拐身代金保険企業) に籍を置く人質交渉人テリー・ ソーン(ラッセル・ クロウ) が早速南米に飛ぶ。 怯えるピーターの妻アリス (メグ・ ライアン) は、彼の冷静な行動に落ち着きを取り戻すのだった。 そしてテリーは人質交渉を開始。身代金を引き下げるために持久戦に持ち込もうとする。だが、 交渉は決裂し、テリーは同じ人質交渉人の仲間たちとピーターを救出すべく強行突入する。はたして、無事に人質を救 出できるのか…。

★緊急時の表現はシンプル  
ダム建設技師のピーターが、 車中でゲリ ラに襲われた時、 咄嗟にこう言います。

Peter: No, I’m not part of this.
やめてくれ、 僕は関係ないんだ (部外者だ) 。  

自分がこのような状況になった時を想 像して見て下さい。 咄嗟には、“I don’t do  anything!”「何もしていない!」くらいしか言えないのではないでしょうか。
「関係ない」を英語で表現するのが以外と難しいことに気づきます。
緊急時は、 出来るだけ簡単 な表現で伝えるのがベストです。
ここではpart of( ~の中の一部)と表現しています。  
同様に、 現地の同僚が本社に電話で事 件を説明する時も実に簡単な言葉で伝え ています。

No, it was completely random. Nothing definite at all.
ちがう、これは完全無差別だ。はっきりしたことはまだだ。

無差別テロは、“indiscriminate terror”ともいいますが、“random”「 思いつきの」の方が簡単です。 日本語でも焦っている時は、会話表現は短くなります。シンプルな言葉で表現できるように練習する必要があります。

★プロの人質交渉術  
次に人質交渉の場面を見て行きましょう。
リスクコンサルタントのテリーは、 誘拐されたピーターの家族にこう言います。

Terry: For you it’s emotional, for the people, holding Peter, it’s a business. The sooner you get comfortable and objective about that, the easier this will be.
あなた達にとって悲しいことでも、 奴らにとって(人質)はビジネスなんです。 あなた達が早く落ち着くことができれば、この問題の解決も早くなることでしょう。  

中学校で習った表現“The sooner~, the –er”「早ければ、~なる」です。テリーの意見は、 とても冷静です。  

続いて、現地の警備員はゲリラと人質交渉する時に以下のように言っていました。

They always start with a big numbers. They want to get a first transfer.
始めはいつもふっかけてきます。 まず手付金を要求しています。  

ここでの“big numbers”は、文脈から「大金」です。また、“a first transfer”は「手付金」となります。ちなみに、“numbers”を、“bucks”という言葉に言い換えて、“big bucks” とすると「大金」の意味になります。こうした生きた表現は、簡単な文ですが、なかなか思いつきません。この際、覚えてしまいましょう。  

最後に、この映画の大きな見どころは、 実際の誘拐事件におけるリアルな交渉術です。危機管理の担当者にとって、普段見る事のできない欧米のリスク・コンサルティングの現場の仕事の醍醐味を垣間見ることができます。