2013/11/25
誌面情報 vol40
互いを知らなければICSは機能しない
原子力事業者に限らず、あらゆる組織が日々備えるという文化を構築していくことが今、求められています。
ICSは多機関の連携を達成させる上で有効なシステムではありますが、最も難しいとされる点でもあります。それぞれが日常的に備え、訓練を通じて、お互いの組織のことを知らなければICSは機能しません。
ボストン・マラソンでは、爆発直後に非常事態宣言が出されて、その時点で消防も警察も病院も緊急モードにシフトしました。消防はいち早く現地にかけつけICSに基づき傷病者のトリアージなど対応にあたり、警察は警察でICSに基づき犯人の捜索活動などを開始、さらに医療でも各病院ごとICSに基づき傷病者の受け入れ準備に入りました。私の友人でボストンの病院に勤務する医師に聞いたところ、当時、救急室はどこも万床でしたが5分~10分という短時間で所定の手順にしたがってすべての患者を他の病床に移し、重症者の受け入れ態勢を整えたということです。非常事態宣言が出されたら、自動的にそうすることが決められていたのです。
消防、警察、医療それぞれが、緻密に連絡を取り合いながら連携していたかと言えば、いつまた爆発が起きるか分からないという緊迫した状況の中で、そのような余裕はなかったはずです。 教科書的に言えば、指揮統合「ユニファイドコマンド」・の考えに基づき各組織の指揮官が1カ所に集まって災害対応計画(IAP)を作り、情報を共有しながら対応にあたるという流れになりますが、いつまた爆弾が爆発するか分からない切迫した状況の中で、すぐに各組織がそれぞれの任務に専念したのです。にもかかわらず、危機対応の大きなフレームワークは共有され、死傷者を一人でも少なくするという共通目標のもと、それぞれのICSが見事に調和して事態を収束させました。その理由はお互いをよく知っていたということです。
小さな事故なら、自分の会社、自分の部署だけで対応にあたれますが、緊急事態というのは、普段付き合ったこともない人といきなり連携しなくてはいけない。ですから、日常的に訓練などを含めお互いを理解しておくことが不可欠なのです。
もう一つ大切なことは現場に任せるということ。これはICSに限らずあらゆる危機管理、さらには普通のビジネスにおいてもあてはまることです。 救急医療や人命救助を行う立場から言うと、切迫した状況でいちいち上の判断は仰げないわけです。目の前に傷病者が倒れているのに「これをしていいですか」「あれをしていいですか」と判断を仰いでいたら患者は死んでしまいます。現場に権限を委譲してもらわなければ医療行為などできません。私が強調したいのは、現場に役割と責任、そして免責の部分も与えていかないと、現場がどんなに頑張っても問題は解決できないということです。
東京電力だけでなく、国や自治体も含め、を理解するとともに、ICS現場に任せられる信頼関係を日常的に構築しておかなくてはいけません。今、東京電力では、現場の発電所が危機対応に専念できるように裁量権を与え、それを本店側が支える仕組みを改めて構築しています。国は、規制する立場ではありますが、同時に、緊急時には現場を支援する立場ではあることを日常的に理解しておく必要があります。その考えがなければ、再び災害が起きた時、不要な政治介入が起きかねません。
アメリカは40年という長い月日と、多くの血と汗を流しながらICSを築き上げてきました。州が違えば法律も規制も違い、さらに民族も違う、日本よりはるかに厳しい条件の中、こうした連携の手法を構築してきたのです。
東京電力は粛々と訓練を繰り返し、ICSを1つのツールとして独自の危機管理体制を真剣に構築中です。今後は、政府、自治体、あるいは関連企業が一体となって取り組む姿勢が求められてくるでしょう。
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