分譲マンションの災害対策


長谷工コミュニティ

長谷工コーポレーショングループのマンション管理会社である長谷工コミュニティは、2011年3月の東日本大震災を契機に、管理物件の災害対策に努めてい る。同社が震災で得た最大の教訓は、首都圏では交通機能が麻痺したことにより、管理会社のスタッフが身動きできず現地に駆け付けられなかったこと。これに 伴い、マンションの住人と管理組合による自助と共助を重視、管理会社がこれをいかにサポートするかを考え、分譲マンションの災害対策に積極的に取り組んで いる。

東日本大震災が大きな教訓に 
長谷工コーポレーションは、54万戸を超える分譲マンションの施工実績がある。長谷工コミュニティは長谷工コーポレーションの施工物件を含め約23万戸の物件を取り扱うマンション管理会社。そんな同社が、災害対策に力を入れるきっかけとなったのが東日本大震災だった。 

地震が発生したのは、金曜日の午後14時46分。平日の昼間だったことから、働き盛りの世帯では、一家の大黒柱である夫が不在というケースが多かった。そん な中で、「奥様方が最も頼りにしたのが、マンションの管理員(同社ではライフマネージャーと呼んでいる)だった」(同社業務推進部)。 

比較的新しい建物の場合だと、火災やガス漏れ、非常通報、エレベーターの異常などを検知する監視システムが配備され、都内にある同社の監視施設「アウル24 センター」が、365日24時間、管理物件を集中監視する体制が整っている。先般の台風26号の際も、地下設備の冠水などにより、10月16日の1日だけ で約600件の警報が鳴ったという。

防犯、ガス漏れ、非常通報といった戸別の警報は提携警備会社にも送信され、警備員が現場に駆けつけて 応急処置に当たる。エレベーターの異常、受水槽の満・減水、ポンプの異常などの共用部分の警報があった場合や、先の専有部分のトラブルにおいて、警備員だ けで対処しきれない場合には、同社の技術専門員が駆け付ける2段構えの仕組みになっている。しかしながら、東日本大震災においては交通機能が麻痺し、本シ ステムが大地震に対してはほとんど機能しないことが明らかになった。 

こうした経過を踏まえて同社が着目したのが、被災時に現地にいる住民とその集合体である管理組合の2つの存在。分譲マンションの災害対策に際して、住人の自助と管理組合の共助の力を重視。この二者を事前、発災時にいかにサポートするかに注力することにした。

居住者にパンフ、組合にはマニュアル 
同社は、震災直後から、住人や管理組合に対する具体的な取り組みを始めている。2011年5月には、マンション居住者向けに、事前対策と発災時の望ましい行 動を示した「地震に備える」「地震が起きたら」2つのパンとのフレットを作成して配布した。管理組合に対しては、管理組合向けの事前対策と災害発生時の望 ましい行動の在り方を示したマニュアルを作成、管理組合にマニュアルを活用しながら、災害対策に取り組む働きかけを行っている。

「長谷工の防災3点セット」を提案 
長谷工コミュニティでは、東日本大震災時に、同社の技術専門員による管理マンションの緊急点検を実施し、被災マンションについては、居住者の安全確保をはじ め、ライフラインを中心とした応急措置や復旧工事に際して概算費用の算出と工事実施に向けた管理組合の合意形成などの復旧にも具体的に取り組んだ。また、 東北の被災地にも技術者を派遣し、被災状況調査の協力にも貢献している。 

東日本大震災を経て、同社ではライフライン対策や防災品の備蓄強化も重視している。 

その一環として、各マンション単位に災害発生時の生活基盤を確保するための長谷工独自の「防災3点セット」を提案している。3点セットとは、非常用飲料水生成機、非常用マンホールトイレと炊き出しかまど。 

非常用飲料生成機は、高分子逆浸透膜を利用したシステムで、敷地内に掘った井戸や河川・水槽から取水し、スピーディーにろ過して飲料水を供給するもの。同製 品のウェルアップは、1日最大15t・約4800人分の飲料水を毎日供給することができる。小型のウェルアップミニは、1日最大4.8t・約1600人分 の飲料水を供給できる。停電時も運転できるよう、動力源には発電機を採用している(写真)。

コミュティづくりと防災訓練も 
長谷工コミュニティでは、分譲マンションの災害対策に必要不可欠なコミュニティづくりの醸成や防災訓練の非常用トイレは、下水道に直結させるトイレ。災害時に敷地内のマンホールのフタを外して、マンホール枠に簡易トイレ(洋式便座)を設置するだけで、簡単に利用できる。 

炊き出しかまどは、普段は屋外の背もたれとひじ掛けの無い腰掛けとして利用するもので、災害時に腰掛け板を外すだけで、炊き出しかまどとして使用できるもの。防災セットは、長谷工コーポレーションが設計施工する新築分譲マンションに採用を提案している。 

このほか、防災備蓄品では、救助に必要な工具類、居住者の避難に必要なライトやリヤカー、水を貯めておく大型水槽など、管理組合で備えた方が望ましい備品や、非常用食料や非常用の持出セット、簡易用トイレなどの備えも具体的に提案している。サポートにも努めている。 

コ ミュニティづくりでは、お祭りなどのイベントを開催したり、囲碁やママ友といったサークルの立ち上げ誘導なども行う。イベントで好評なものに、真夏に行う “打ち水大作戦”がある。マンションの敷地に、子ども向けのプールなどを設けて、カラフルな覆面コスチュームを着た数名のレンジャーが登場して、子どもた ちとワイワイ打ち水を楽しんだりする。打ち水期間は一週間や10日間などまちまちで、お祭り日などを設けて、バーベキューや防災訓練を同時に実施したりす る。 

防災訓練では、役所や消防署、自治会に相談を持ちかけ、消防車や地震体験車をよんだり、AEDや消火器の体験訓練や、井戸水のバケ ツリレーやかまどを使った炊き出しを行ったりなど、マンションごとに工夫を凝らしたさまざまな取り組みが行われ、数百人規模の参加者が集まるマンションも 少なくない。 

東京都荒川区のマンション「リバーフェイス」で昨年開かれた2回目の防災訓練では、同社が居住者に配布している季刊誌にヒ ントを得て、荒川区のゆるキャラ“あら坊”を登場させて子どもたちの人気者に。当日の参加者は250人を超え、「顔見知りが増えて良かった」などの感想も 聞かれたという。