協定で官民の役割を問う

民間企業は自治体との協定をどのように締結しているのか、協定を確実に実行するようにどのような工夫をしているのか。現在、全国の自治体と100を超える協定を結んでいるセブン&アイグループの取り組みを取材した。

2011年3月11日の東日本大震災。セブン&アイ・ホールディングスでは発災後ただちに災害対策本部を立ち上げ、東北地方の支援に向け、無償で提供できる義援物資の準備に取り掛かった。発災直後から20トンの給水車に水を汲み入れ翌日には宮城県の災害対策本部に向け出発させたほか、当日ヘリコプター2機をチャーターして積める限りの食料や飲み物を被災地に送り届けた。その後もトラックで現地に緊急支援物資を搬送。その量は2リットルの水ペットボトル3万本、バナナ1800本、パン類7000個、ごはんパック4800個、その他、紙おむつ、ベビーフード、カップ麺、レトルトカレー、肌着・衣類など膨大な量にのぼる。これらは協定とは関係なく、しかも現地からの要請を受けたわけでもなく無償で送り届けた物資だ。

過去の災害でも義援物資は必ず送っている。しかし、東日本大震災は、この義援物資だけでは被災地の需要は賄いきれず、東北地方の自治体からは緊急支援物資の要請が相次いだ。 

2013年4月末までに送り届けた物資は有償・無償を含め61団体に対し計16億円分に相当する。しかし、このうち、事前に協定を締結していたのは約半数にとどまる。 

協定があっても無くても、要請があれば、できる限りの物資を送り届けるというのが同社の姿勢。では同社にとって協定の意義とは何か?

総務部グループ渉外シニアオフィサーの成田庄二氏は「協定は被災地への支援を確実に行うための1つの方法論」と説明する。しかし、前提として、被災地支援は「地域社会に信頼される誠実な企業でありたい」という社是を守るために不可欠なものであり、したがって、それをより確実にするための協定は必要なものだとする。

行政と民間の役割分担 
もう1つ協定を締結する意義は、行政と民間の役割分担を明確にすることにある。災害が発生すれば被災者と非被災者が発生する。被災者は避難所に行き、非被災者は自宅で生活をする。しかし、実際には東日本大震災がそうだったように、非被災者とはすなわち“自宅避難者”であり、結局は地域全体への食料や水の供給が途絶えるため避難所に集まってしまう。その結果、避難所の運営負荷は増加し、本来支援されるべき被災者の生活がより過酷な状況に陥る。 

これを避けるためには、行政が避難所の運営をサポートするとともに、民間事業者は可能な限り店舗で営業を継続し、水や食料を提供し続けることで自宅避難している人をその場にとどまらせる必要があるとする。 

一般的に、協定は、行政が避難所に対して緊急支援物資を送り届けることだけを目的に締結されるケースが多いが、成田氏は、「当然、行政の協定には協力するが、同時に、民間事業者が通常店舗で営業を継続できるように行政側にも協力してもらいたい。協定を結んでお互いの役割分担を明確にした上で、いざ災害があったときにはどういう対応をすべきか役割分担を互いに確認することが、協定の意義」と説く。 

そのため、同社では協定を結ぶ際は、必ず事業会社の担当者が自治体の担当者と会い、話し合うことにしている。「自分たちができること、自治体側に要望すること、自治体から期待されていること、妥協できる範囲などをしっかり話し合った上で協定を締結する」(同)。

緊急通行車両の指定求める 
具体的に、同社が行政に求める協力の1つが緊急通行車両の指定だ。 

災害時には緊急通行車両の指定を受けなければ、高速道や幹線道路など交通規制区間を通ることはできない。自治体などと協定を結んだ企業は、災害時に緊急支援物資の調達要請を受けると「緊急通行車両確認証明書」などの交付を受け、それを車両に貼ることで初めて緊急輸送路などを走ることが許される。 

しかし、行政が避難所の支援だけを目的に協定を締結すれば、避難所に緊急支援物資を送り届ける車両に対しては緊急通行車両の指定を許可できるが、民間企業の事業継続のための車両には許可できないという図式になる。 

成田氏は、「被災地支援という問題を紐解いて考えればこの発想はおかしい。行政と民間事業者が連携しながら被災者、非被災者双方を支援することで、初めて被災地全体の安定が可能になる」と指摘する。 

緊急通行車両確認証明書の交付方法にも配慮が必要だと要望する。一般的には、証明書は、行政からの要請を受けた段階で交付される。事前に車両を登録しておける自治体もあるが、必要台数分だけの登録が求められ、どの車両がどこを走っているかは災害が起きてみなければ分からないため、実際に指定車両が使えるかどうかは災害が起きてみなければ分からない。交付される場所は最寄りの警察署であったり、協定元の自治体であったりまちまち。最寄りの警察署であっても、連絡が行き届いていなければ交付が受けられない事態も起こり得る。 

「ファックスで送ってもらうか、自治体間で連携をして、どの役場に行っても交付が受けられるようにするなどの工夫をしてもらいたい。被災自治体が交付することは職員の負担を増やすことにもなる」(同)。 

緊急支援物資を、どちらがどこまで搬送するかも事前に合意をしておくべき重要な点だという。自治体が避難所までの搬送を期待しても、東日本大震災における福島第一原発事故のように危険を伴い車両が通行できないこともある。その場合には、自衛隊が運ぶのか、自治体側が取りに来るのか、細かな点だが、協定を締結する上ではこうした点にも配慮が必要となる。


協定の実効性を高める 
現在、セブンイレブン、イトーヨーカドーなどセブン&アイ・ホールディングスのグループが締結している協定は143。その大半が自治体との協定である。協定を確実に実行するため、同社ではいくつかの仕組みを構築している。 

1つは、自治体の規模や店舗数に応じて最適な供給体制を整えること。自治体との協定は事業会社であるセブンイレブンやイトーヨーカドーが締結する。セブンイレブンは、各県単位で食料品を製造しているため、地域密着型で機動力がある。一方、イトーヨーカドーは、全国単位での流通となるため、大量の物資の供給が優れている。「小売業者の中には、店舗単位で協定を結んでいる業者もあるが、本質で考えれば、生産を伴うことなので、本社単位での締結が望ましいと思う。さらに自治体にとって負荷が少なくて済むよう最適な方法についてお互いが合意をしていかなければならない」と成田氏は語る。 

一方、いざ災害が発生した際は、災害規模が限定的なものであれば各事業会社が対応にあたるが、大規模な災害が発生した際には、持ち株会社であるセブン&アイ・ホールディングスが窓口となって最適な調達が可能となるよう指揮調整にあたる。「ホールディングスが全体の状況を把握しながら、各事業会社に指示を出す」(同)。東日本大震災では、セブンイレブンに寄せられた要請の多くに対し、実際にはイトーヨーカドーの物流ネットワークを使って物資を現地に送り届けたという。 

メーカーに対してもこの方法は有効だとする。通常時は事業会社ごとにメーカーから仕入れをしているが、災害時など急激に需要が増加した時には、個別にメーカーに対して仕入れの要請をしたら混乱を招く。そのため、ホールディングスが必要な量をとりまとめてメーカーから調達し、事業会社に振り分ける形をとることにしている。「災害時にはお互いの作業を省力化していくことを考えることが大切」との理由からだ。 

仮に、メーカーからの調達では間に合わなければ、トップをはじめグループ一丸となって仕入に動く。国内外を問わず、普段取引の少ないメーカーも含め仕入にあたるという。3.11では、アメリカや台湾、韓国から乾電池や水を仕入れた。 

「社長も会長も一仕入担当者になり、メーカーの社長に直接お願いをして物量を決めていく」(同)。 

したがって、協定の中には調達可能な数などを明記しない。 

「数を明確にすることは、自治体の方にとっては、おおよそどのくらいの量が調達できるか目安にはなるかもしれないが、実際には過去の災害のデータを見ても、必要量は毎回異なっている。私どもとしては、実現できないことをできると言うつもりはないし、想定を超える量でも可能な限り調整にあたる」と成田氏はその理由を説明する。

南海トラフでの巨大地震が起きても自治体からの要請に応えられるか? 

こんな問いに対して、成田氏は「やってみなければ分からないが、おそらく東日本大震災の比ではない。海外からの調達もかなり増やさなくてはいけない。しかし、我々は日常的に世界のどこからどんな商品が調達できるかを把握している。まさに小売業としてのバイイング力が問われる」とする。ただし、海外から調達するとなると、成分表示などが英語のため、商品ごとではなく、店舗のどこかに成分表示をすればいいことにするなど、規制緩和をもっと広める必要があると付け加える。 

もう1点、協定を確実に実行するための工夫は、物流の強化だ。東日本大震災では、被災地のみならず、首都圏でも深刻なガソリン不足が発生した。これを回避するために同社では、国内の小売業としては初めて、燃料備蓄基地を建設。埼玉県北葛飾郡杉戸町にあるイトーヨーカドーの物流センター敷地内に燃料400キロリットルを常時備蓄する(施設は2014年2月に完成予定)。平時は、燃料の販売配送・事業を手掛ける三和エナジー(横浜市)が営業拠点として利用し、災害発生時には、備蓄燃料を避難所への緊急物資配送やセブン&アイ各店舗の商品配送のために使う。 

被災地を支援する自治体への供給 
これほどの供給力を持ちながらも東日本大震災では、商品供給を断った案件がある。東北の自治体と災害時応援協定を結んでいた九州の自治体が、同社に対して支援物資を供給してほしいという依頼だった。

断った理由について成田氏は「我々は、東北の自治体とも協定を結んで要請に基づき商品供給をしている。当然、現地の自治体は、何とか自分でコントロールしようとして必要な物資を要請してきている。そこに、他の自治体がいきなり要請していないものを送ってきたらコントロールがくずれ、被災自治体の事務作業がパンクしてしまう」と説明する。 

自治体の中には、他の自治体からの緊急支援物資をあてにして避難所運営を考えているところもある。

しかし、その自治体がどこから支援物資を仕入れるかといえば、自動車部品のサプライチェーン構造と同様、結局は同じメーカーや小売店が供給元として重複しているケースは当然あり得る。災害時に無暗に協定に基づき小売店やメーカー、自治体に物資の要請をすれば、1社の供給元に、本来、被災自治体からの要請だけで済むはずのものが、被災地以外の複数の自治体や民間事業者から要請が殺到し、結局はそれが多大な時間を要し、必要以上の量が被災自治体に届けられるというケースも生じうる。 

「自治体の方には、災害時には、自分のところで何個必要だが、お宅ではどのくらい供給できますかというアンケートをとり、その上で、他からの調達可能量なども聞き、自分たちが実際にどのくらい当社から調達するかを割り出して正式に依頼をしてもらうようお願いしている。次々と依頼が入ってくるため、できれば2時間以内に正式に決定をしてもらえればありがたい」と成田氏は話している。