3人の機能的な知り合いをつくれ

災害対応における部署間、組織間の連携は、極めて重要であることは改めて説明するまでもない。しかし、多くの自治体などの組織においては、平時と災害時の業務体制が異なることから、円滑さや質的な面において多くの課題が残る。災害対応の連携を迅速、的確に行うためには、非日常時における連携の枠組みをあらかじめ整理するとともに、現状でどのレベルの連携ができるかを正しく評価し、課題を洗い出し、改善していく取り組みが不可欠となる。

災害時の部署間、組織間の連携力の向上について研究に取り組んでいる「情報伝達・共有型図上訓練を用いた危機管理体制強化マネジメントプログラム研究チーム」研究代表者の加藤尊秋氏(北九州市立大学准教授)によると、各災害対応目的への対処は、ほとんどの市区町村で3つ以内の部局の連携で実施されているという。これらの部局に属する職員が業務の流れを理解し、お互いに知り合い、災害対応上で顔の見える関係になっておくことを加藤氏は「3人の機能的な知り合いづくり」と呼ぶ。

北九州市で今年1月に実施された図上演習をもとに、連携を高めるためのポイント、日常訓練における評価手法を加藤准教授に寄稿していただいた。


組織としての災害対応能力向上に向けて
平成25年度北九州市総合防災訓練における技術実証

情報伝達・共有型図上訓練を用いた危機管理体制強化マネジントプログラム研究チーム
研究代表者・北九州市立大学准教授 加藤尊秋

1.はじめに
 平成26年1月18日に、震災を想定した大規模な図上訓練(図上防災シミュレーション訓練)が北九州市で実施された。地方自治体の図上訓練は、災害時に必要な情報伝達や意思決定の能力向上のために、国によって実施が推奨されているものである。この訓練には、北九州市に加え、陸海空自衛隊、海上保安庁、福岡県警察、北九州市医師会、九州電力、西部ガス等の13機関から計488名が参加した。このうち、北九州市からの参加者は、市長以下447名であった。これだけの規模の図上訓練は、政令指定都市でもあまり例がない。北九州市においても、全市規模の図上訓練は、風水害を想定した平成19年度総合防災訓練以来であった。 

表1は、北九州市が設定した訓練目的である。また、会場となった北九州市立総合体育館の様子を写真1に示す。今回の訓練には、災害時に生じる様々な業務に対する部署間連携体制(意志決定ネットワーク)の明示化、図上訓練結果の定量的評価による組織としての災害対応能力の「見える化」など、他の図上訓練とは異なるさまざまな特長がある。

私たち「情報伝達・共有型図上訓練を用いた危機管理体制強化マネジメントプログラム研究チーム」では、総務省消防庁から競争的研究資金をいただき、平成24年度以来、災害対応に強い市区町村の組織構成とは何か、そして、それを作り上げるためにどのような訓練や教育手法が適切か、研究開発を進めている。今回の訓練では、研究チームのメンバーでもある北九州市と密接に協力し、以下に述べる組織作りの考え方や危機管理教育・訓練支援システム、訓練結果の定量的評価について実証を行った。そして、組織のあり方についての見通しを持ち、図上訓練のやり方を少し変えるだけで、これまでの訓練よりもはるかに豊かな結果が得られることを確認できた。

2.災害に強い市区町村組織とは
私たちは、災害対応には手続きの円滑さと質の高さの2つの側面があると考えている。例えば、市区町村が豪雨災害に備えて避難勧告を発令する場合、関係部局が自分の役割をきちんと理解し、他の部局との連携の仕方も知っていれば、素早く発令できる。これは、手続きの円滑さの側面である。一方、質の側面とは、発令したタイミングが適切であったか、避難の範囲は適切であったか等の課題に関わる。私たちは、まず手続きの円滑さ向上に取り組んでいる。この点は、質の問題の陰に隠れがちであるが、地方自治体の災害対応が様々な部局の連携によって行われており、しかも、多くの職員にとって災害対応が非日常業務であることに着目すると、実は大きな課題であることが分かる。図1は、非日常業務の難しさを示したものである。部局による業務の偏りや、複数部局による対応(またがり)さらには、担当部門間の隙間などの案件が生じ、調整に時間を要してしまう。 

そこで、災害時に生じるであろう業務をあらかじめ一通り整理し、最初にどの部局が担当するか、次にどの部局が連携するか等の業務の流れを事前に考えておけば、調整に要する時間を大幅に削減でき、業務の混乱による災害対応の遅れを減らすことができる。このことは、東日本大震災や九州北部豪雨の被災地となった自治体で私たちが行ったヒアリング調査でも指摘されていた。しかしながら、地方自治体の災害対応の基本となる地域防災計画をみても、このような業務の流れは、ほとんど把握できない。特に、マスメディア等で追及されることが多い避難対応(避難勧告発令等)を除くと、皆無と言っても良い。これに対し私たちは、現状で多く用いられている系統図(図2の左側:関係する部局は分かるが、業務の流れは分からない状態)から、右側に示す災害対応目的別の「意志決定ネットワーク」へと表現を変えることを勧めている。これにより、自治体職員皆に分かりやすい形に業務の流れが「見える化」され、さまざまな災害時業務についてより円滑な処理が可能となることが期待される。 

私たちの整理によると、「避難勧告等の発令」「応援要請」「住民の健康管理」など19の災害対応目的について意志決定ネットワークを明確化しておけば、災害時に生じる多くの事態に対処できる。また、各災害対応目的への対処は、ほとんどの地方自治体で3つ以内の部局の連携で実施されている。したがって、これらの部局に属する職員が業務の流れを理解し、お互いに知り合い、災害対応上で顔の見える関係になっておくことが災害対応業務を円滑かつ柔軟に行うための1つの目標となる。このような関係づくりを私たちは「3人の機能的な知り合いづくりと呼んでいる(行政区を持つ政令指定都市の場合、4部局の連携となることもある)※末尾の表参照。