画像や音声で操作支援を行う(提供:水資源機構)

4月から運用最新システム

「必要は発明の母である」の思いを新たにする最新技術開発の見事な実例を紹介する。このシステムは今年(2017)4月から運用されているが、独立行政法人・水資源機構のみならず、全国でもほとんど導入例のない先駆的ものと評価が高い。システムのひとつは、機械設備の操作支援システムである。AR(拡張現実)技術を用い、画像や音声を用いて操作手順をナビゲーションするとともに、操作の記録も同時に行うことができる。

もう一つは、不具合対応支援システムである。目線カメラ付きのヘルメット型・HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を用い、音声や映像を双方向で通信することにより、遠隔地の専門技術職員と現地の操作者との間で情報のやりとりや的確な指示を行うことが出来る。

職員支援システムのイメージ (提供:富士通)

これだけの説明では画期的なシステムは理解しにくいと思う。なぜ琵琶湖なのかから紹介したい。琵琶湖は、湖周辺や淀川流域の約1400万人もの暮らしや経済・産業を支える日本最大の湖であり、そこに生息する全ての生物にとっての恵みの湖である。琵琶湖周辺には、大雨などによる沿岸の浸水被害の軽減や内湖の水質保全を目的として設置した18カ所の給排水機場や158カ所ものゲート設備等、多くの洪水・環境対策用の機械設備が配置されている。

2013年9月16日、台風18号襲来の影響により、2日間で琵琶湖水位が102cmも上昇した。水資源機構琵琶湖開発総合管理所(以下、琵琶湖総管)では緊急内水排除に入る重大事となった。琵琶湖総管では、琵琶湖一円に設備が点在していることから、防災業務時には防災班を編制し、琵琶湖周辺の巡視や水門等の操作を職員等が行い、排水機場の運転は、請負業務による運転操作員が行うことしている。だが、この時の大出水では、時間当たりの降雨量が予想を超え、公共交通機関の麻痺や道路冠水による通行止めにより、運転操作員の初期配置が十分確保できない状況となった。このような緊急時では、職種を問わず全ての職員が迅速かつ安全・確実に排水機場を運転操作しなければならない。だが全ての職員に迅速かつ安全・確実な運転操作を期待するのは無理であった。

琵琶湖総管における防災業務はダムの防災業務と比較すると長期間に及ぶことが多く、長期間のポンプ設備運転となると故障や不具合の発生率が高くなってくる。各防災班には様々な職種の職員が配置されているが、専門職については各管内(湖南・湖北・湖西管理所)に1名ずつしか配置できず、故障・不具合発生時は復旧対応に追われることになる。2013年の大洪水対応から2つの課題が浮き彫りとなった。

○ 職種を問わず全ての職員による迅速かつ安全・確実な運転操作
○ 職種を問わず全ての職員による最低限の不具合対応

琵琶湖総管ではICT(情報通信技術)を活用し、2つの職員等支援システムの研究・開発に入った。