タブレットを用いた機場操作(操作支援、提供:水資源機構)

排水機場運転支援システム

それまでポンプ設備・ゲート設備の運転操作については、職種を問わず誰もが操作できるよう、施設毎に写真や図を多用した操作要領を作成し、それにより操作を行うこととしてきた。だが、ポンプ設備の運転操作はゲート設備に比べ、数多くの確認や移動、操作が必要となり、紙媒体の操作要領では解りづらいとの指摘があった。そこで、迅速かつ安全・確実な運転操作を実現するため、タブレット端末とARを利用し、画像と音声により操作をナビゲーションするシステムを開発・導入した。

ARを用いた運転支援システムは、排水機場運転に必要な作業手順をシナリオ化し、ARマーカーに記録する。作業内容が記録されたARマーカーは作業対象機器に貼付しておき、これをタブレット端末のカメラで読み込むことで、シナリオ化した作業手順が順々に画面に表示される。作業箇所の特徴点を検出することによりマーカーレス化も可能で、琵琶湖総管では、画像認識機能を用いて、操作盤の銘板をマーカー化する方式を採用した。

琵琶湖総管では、情報漏洩の可能性や現場での通信環境、通信費を考慮し、琵琶湖総管にて作業手順のダウンロード、作業結果のアップロードを行い、現場ではオフライン環境下で使用する方式とした。作業結果は防災業務終了後、琵琶湖総管に戻り、タブレット端末を充電器に差し込むことで、クラウドサーバーに自動でアップロードされる。アップロードされた作業結果は、クラウドサーバーにアクセスすることで琵琶湖総管のみならず、本社・支社・他事務所からも閲覧が可能となる。

帳票として印刷することも可能で、手書きの作業結果を、防災業務終了後にPCで作り直していた手間を省略出来るようになった。システム開発には、機械職だけでなく、事務・土木等様々な職種にも調査職員として参加し、開発に携わってもらうことで、視覚的に理解しやすいシステムとなるよう配慮した。

不具合対応支援の仕組み(提供:水資源機構)

排水機場不具合対応支援システム

ARを活用したシステムは、事前に手順をシナリオ化しておく必要があるため、あらかじめ手順が想定できる作業に対しては、非常に有効である。一方、故障・不具合(トラブル)対応についてはこれまでと同様に、専門知識を有する職員や、メーカー・設備の点検業者に頼らざるを得ないが、排水機場は琵琶湖一円に点在しているため、不具合対応だけでなく、現地までの移動にも時間を要する。そこで、専門知識を有しない職員等でも最低限の不具合対応を可能とする排水機場不具合対応支援システムを開発・導入することとした。

不具合対応支援システムは、インターネット回線を利用し、映像と音声による双方向通信を行う。ヘルメットとよく似たHMDのカメラで捉えた映像・音声は、遠隔地のPC・HMDと共有しており、不具合発生現場の状況をリアルタイムで確認することが出来る。

今まで専門知識を有する職員等やメーカの熟練技術者などを現場に派遣せざるを得なかった故障・不具合内容も、映像・音声から得られる情報により、遠隔地からの作業指示で対応が可能となる。本システムは、現在4者までの同時通信を行うことができ、通信用のアプリケーションがインストールされたPCかHMDさえあれば、不具合発生現場、琵琶湖総管のみならず、本社・支社・他事務所からも不具合対応支援が可能である。また、ポンプ運転時の騒音状況下での使用を想定し、文字チャット機能を有している。さらに、HMDのカメラにより静止画像を撮影し、通信上で共有することで、遠隔地のPC・HMDから静止画像への書き込み指示も行うことができる。

琵琶湖総管では、とりあえず運転操作支援、不具合対応支援としてシステムの開発・運用を行ったが、他の事務所のダム・水路の管理においては、防災時の下流巡視、放流警報、直営点検、緊急時の操作指示等に活用できるものと期待される。運転操作支援、不具合対応支援に加え、点検チェックシートの作成、データの可視化、予兆診断分析(健全性評価)など様々な設備管理に役立てることができ、施設の一元管理も可能である。

若手の技術者は言う。「洪水時などには、多くの設備を同時に操作する必要が生じます。限られた人数で対応するため、機械職以外の職員でも対応出来るようにマニュアルの整備や訓練の実施に努めてきましたが、限界がありました。今回のシステムは、機械職以外の職員でも安全・確実に設備操作を行うことが出来ます。同時に簡単なトラブルには遠隔地からの支援を受けその場で対処することが出来ます。運用から半年、誰にでもすぐ使えるシステムにレベルアップすることが目標です」
(付記:琵琶湖総監管が開発・導入したICTの活用による業務支援システムについて、マスコミの取材をはじめ、国、大手民間企業、大学等各方面から、多数問い合わせが相次いでいる。各関係機関や機構内の研究発表会において、特に優れた成績をおさめ、多くの賞を受賞している。関心の高さをうかがわせる。
システムに関する問い合わせ(外部)などについて見てみる。

2016年2月29日 全国河川・ダム管理技術検討会優秀賞受賞
2016年5月16日 南山大学実機デモンストレーション
2016年6月7日 大阪電気通信大学リクルート実機デモンストレーション
2016年6月10日 日経BP8月号掲載
2016年7月26日 日立製作所、はいたっく10月号掲載、日経コンピュータ12月号掲載
2016年9月26日 NTT西日本 意見交換 実機デモンストレーション
2016年10月26~27日 建設技術展への出展
2016年10月28日 京都大学リクルート実機デモンストレーション
2016年11月 ダム技術11月号掲載
2016年12月1日 国土交通省全地方整備局etc実機デモンストレーション
2016年度 機械設備基準化調査・担当者会議
2016年12月15日 MM総研雑誌取材対応
2016年12月12日 滋賀県立大学実機デモンストレーション
2017年1月31日 関東技術事務所実機デモンストレーション
2017年3月2日 国土交通省関東技術事務所、同関東地方整備局実機デモンストレーション

(参考文献:水資源機構本社と同琵琶湖開発総合管理所のHP、関連資料。水資源機構には多くのご協力をいただきました。お礼申し上げます。富士通プレスリリースなど関連資料)

(つづく)