活動は、現況のヒアリングから始まった。各社の懸念事項は地震による液状化や、工業団地と陸地をつなぐ橋の落下など多様であるが、最も懸念されるのが、大規模震災に伴う津波からの緊急避難への対応能力だ。ヒアリングでは「自分の事業所で自社社員の津波避難に全て対応できるか」「他企業の津波避難者を受け入れられるか」「他企業に受け入れてもらいたいか」という項目を入れ、それぞれの会社のニーズを探ったところ、工業団地を5地区に分けることで、津波緊急避難者の受け入れ体制が整うことが見えてきた(図3)。 

例えばグループ1では海側に立地する企業の従業員は、地震による津波などが発生した場合、隣接する大規模な敷地を有する事業所に逃げ込む。グループ2は中小企業が密集する地域だが、橋が落ちていなければできるだけ内陸の避難所に逃げる。グループ3は団地内の高台(駐車場)に逃げ込む。グループ4は近隣事業所の高いサイロに逃げ込む、グループ5は工場に付帯する体育館に逃げ込む…など、避難グループを形成し、それぞれのグループ内で協議を行って津波緊急避難計画を作成し、訓練を実施することになった。 

幸いなことに、大企業も多いため機資材は豊富だ。調査したところ救急車を1台、消防車を5台、地区内の事業所が有していることが分かった(2010年時点)。また、医師・看護師を要する事業所も8事業所あった。そのほかの11社で49人の救急担当員が配置されていた。このほか、自社内で消防組織を設置している企業も多い。地区内にはガソリンスタンドや燃料タンクもあるため、エネルギーの備蓄はある。 

これらの資器材を結集するため、年1回の訓練も行うようになった。「堤外地特有の立地事業所に共通する災害懸念があるが、企業の力を集結し、恊働による連携BCPによって団地機能を強靭化していくのが、明海地区のBCP」と公益社団法人東三河地域研究センター常務理事の金子鴻一氏は話す。

行政からも支援


それでも行政への期待は大きい。 



豊橋市産業部産業政策課長の黒釜直樹氏は、「明海地区は真剣に防災に取り組んでくれている。豊橋市も何かしなければいけないと思った」と話す。大規模災害時には災害情報の共有が不可欠となる。昨年、豊橋市は明海地区に対してMCA無線※1を5台貸し出し、訓練を支援した。昨年行ったMCA無線を使用した情報伝達訓練では、幹事役の企業5事業所にMCA無線が配備され、相互に災害状況を確認し合った。市側の窓口は産業政策課が担った。これは災害対策本部が直接窓口になっても、おそらく実際の災害時には災害対策本部は手がまわらない可能性があるためだ。市側は市内の道路などの通行可能性や避難所情報を伝えると同時に、地区からは地元の液状化の状況や橋の具合を報告するなど、今後は、災害対策本部とも連携した訓練を検討していきたいという。 

官と民の連携がなければ大災害時に対応することは不可能だ。金子氏は「明海地区は堤外地のため避難所や救護所もない。今後、市と連携して地区防災計画を策定するなど、さらに明海地区のBCPを強靭化することが必要だ」と話している。