日本導入にあたって注意すべき3つの課題

国土交通省は今年4月24日、大規模水害が国内外で増えているとして、国の機関と流域自治体の防災行動を、台風などが上陸前から時間ごとに定めた「タイムライ

ン」を導入すると発表した。まず国が直接管理する109水系で作成する。タイムラインとは一体どのようなものか。米国で生まれたタイムラインを日本で活用するためには、どのような問題点があるのか。タイムラインの提唱者であるCeMI(環境防災総合政策研究機構)環境・防災研究所副所長の松尾一郎氏に話を聞いた。

2012年10月末、ハリケーン・サンディが米国ニュージャージー州、ニューヨーク州を直撃した。上陸の3日前からニューヨーク州知事らは「緊急事態宣言」を発表。住民が避難する地域を指示するなど準備を着々と整え、被害を最小限に抑えた。ニュージャージー州バリヤーアイランドでは家屋の全・半壊が合わせて約4000世帯に上ったが、事前避難により人的被害はゼロだった。ハリケーン・サンディの脅威から多くの人々の命を救った早期避難を実現したのが「タイムライン」(事前防災行動計画)だ。 

ハリケーン・サンディはニューヨークで75年ぶりの都市圏における高潮災害をもたらした。日本では1959年の伊勢湾台風以来55年間、都市圏における高潮災害は起きていない。ニューヨークでは広範囲に渡って地下鉄にも浸水するなど、松尾氏はこれからの日本の都市圏水害にも教訓を残せると思い、現地調査に乗り出したという。  

「ニュージャージー州の危機管理局に取材に行った時に説明されたのがタイムラインの考え方だ。これはもともと州のハリケーン防災計画の付属書(事前行動要領)として2012年に作成されたもの。台風が襲ってきたときの直前の行動計画を時間軸に沿って策定することで被害を軽減するという考え方で、日本でも使えると思った」(松尾氏)。

「誰が」「いつ」「何を」を明確化 
タイムラインの構造は、台風が発生する直前直後に関係機関がやらなければいけないタスク(業務)を抽出。「誰が(主な機関)」「いつ(対応時間)」「何を(防災行動)」を明確化し、時間軸に落とし込むものだ(図1)。例えばニュージャージー州のタイムラインでは、防災行動の主体(誰が)を15項目に絞り、上陸前120時間で250項目、上陸後72時間までに40項目の防災行動を取り上げ、「誰が」「いつ」「何を」を時間軸で並べて整理した。ハリケーン・サンディではこのタイムラインにのっとり、州知事が36時間前に避難勧告を発令。そこから高潮が襲ってくるであろう沿岸部の自治体と連携し、12時間前に避難命令を出した。結果として、4000世帯が全・半壊した区域でも犠牲者をゼロに抑えることができた。 

「タイムラインは道具でしかないが、作成時にさまざまな機関や組織で危機感を共有するツールとしては非常に有効だ。帰国して国土交通大臣(現・太田昭宏氏)に報告したところ非常に感触が良く、まず国交省として河川管理者と流域自治体の水害対策としてタイムラインの導入検討が始まった」(松尾氏)。