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しかし、渡辺氏によれば、金融市場はもともと「政府のものでも金融機関のものでも、また投資家のものでも誰のものでもない」という考え方が米国で根強いという。結局、市場の所有者が明確でないことによるイニシアチブの欠如により、閉鎖の決定は難航。決定したのは上陸予定前日夜のことだったという。最終的に利害関係者館で共有された市場閉鎖の理由は、公共交通機関が止まり、ニューヨーク市の広い範囲に避難勧告が出されたことによる「従業員の安全確保」だった。利害関係者との情報共有については迅速な対応を達成しながらも、市場閉鎖の最終的な意思決定に関しては米国ですら課題が残ったと言える。 

金融市場に限らず、利害関係者間の情報共有と、最終の意思決定は別物である。平時から利害関係者間の情報共有を図っておくとともに、緊急時には関係機関のトップが迅速に状況を見極め、お互いに協議しながら意思決定を下せるようにしておくことが求められる。

教訓その3
被災が予想される重要インフラのうち、社会的な影響が大きいものは、官民協働で対策を検討すべき

世界最大の金融街であるウォール街や、ニューヨーク証券取引所があるローウァー・マンハッタンの沿岸部には重要な変電設備があったため、設備が水没して大規模な停電が発生。アメリカ最大手の電話通信会社の通信タワーも水没し、通信障害も発生した。

なぜウォール街の近くに重要な変電所があったのか。それはその一帯が、昔は工業地帯だった名残だという。 

変電所が浸水予想地域にあることはそれまでも分かっていたが、電力会社が移設についての経済的合理性を見出すことができず、そのまま放置され、稼動し続けていた。 

「被災が想定される重要なインフラ施設に関し、災害時の都市機能継続を支えるなど公共性が高いものについては、たとえ民間会社のものであっても、政府が企業とコストをシェアするなど検討し、移設しておくべきだった」(渡辺氏)。

教訓その4
自治体の災害対策本部に民間部門のリエゾンを組み込むべき

ニューヨーク市危機管理センターの災害対策本部には150席の民間企業用の席があり、ライフライン企業や業界団体の代表者らはリエゾン(現地調整・情報連絡員)として災対本部の情報を直接把握できるようになっている。例えばハリケーン・サンディでは高潮によって沿岸部の製油所、給油所の機能がストップしたが、石油業界のリエゾンはその情報を入手し、本来であれば規制されているニューヨーク州への石油の輸送を災対本部に掛け合い、特別に規制緩和が許され、被災地への石油輸送が可能になったという。 

市側もリエゾンを通じて業界に災害対応への協力要請と調整をその場で行うことができるなどのメリットがある。例えば、市が被災者を収容するためにホテルの部屋を確保したければ、ホテル業協会のリエゾンを通じて、市内のホテルの状況を確認し、受け入れがどのくらい可能か知ることができる。 

民間企業はリエゾンを通じて自社の事業継続に必要な情報を入手でき、行政の災対本部も民間企業に対して協力などを依頼することができる仕組みだ。 

「災害時にリエゾンの存在は非常に重要。日本でも自治体の災害対策本部に民間部門のリエゾンを正式に組み込むべきだ」(渡辺氏)。現在、京都府では災対本部に民間企業の窓口を設置することを決定し、情報共有の詳細について官民で検討を開始したという。

教訓その5
地元企業に配慮し、臨機応変に物資を配給できる仕組みを構築すべき

ニューヨーク市は災害時にも、地元中小企業への配慮を行っている。災害時の中小飲食業の被災状況を電話で自動的に把握するシステムがあり、マンハッタン内のレストランなどの被災情報がGIS(地理情報システム)経由で災対本部の地図上にプロットされる。営業継続、もしくは営業可能なレストランがあれば、そのエリアには意図的に救援物資を届けないこともある。市やFEMAが被災者に無料の物資を配給してしまうと、せっかく生き残ったレストランへの客足を減らすことになり、結果的につぶしてしまうことになりかねないからだ。逆に、オープンしているレストランには、市に代わって被災者に食事を提供してもらうなどの対策もできる。発災直後にもどれだけ地元企業が生き残っているかを把握することで、効率よく物資の配給調整を行うことができるという。 

「災害時においても自治体とローカルビジネスが連携し、Win-Winの関係を築くことが、速やかな地域復興につながる」(渡辺氏)。