メリークリスマス!(2017 Euless Fire Department Christmas Video(出典:YouTube))

もうすぐクリスマスですね。

昨年は、米国の消防士たちのクリスマスについて、地域貢献や住民サービスの一部として、活躍していることを書かせていただきました。

■「心のぬくもり」の伝え方~米国の消防士たちのクリスマス
クリスマスイブ、子どもたちは救急車で教会に
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2214

海外のキリスト教系文化のある消防署では、クリスマス時期に消防署を開放してクリスマスパーティーを行ったり、消防車両などを使ってパフォーマンスを行い、楽しんでもらったりしています。

下記は昨年、ボランティアの消防団が作成したビデオですが、とてもよくできていると思います。また、この動画の下の数々のコメントが「素晴らしい!」「楽しませてくれてありがとう!」などポジティブなコメントが多いこと。

Euless Fire Department Christmas Lights Mix (出典:YouTube)

下記は今年のバージョンで、制作風景や制作している消防士達も映っています。


2017 Euless Fire Department Christmas Video(出典:YouTube)

もし、日本のどこかの消防局がこのようなビデオを作成したら、どのようなコメントが寄せられると思いますか?私の予想ですが、7割方はポジティブなコメントかもしれませんが、3割近くは下記のようなコメントが寄せられるかもしれません。

「ここの消防士たちはキリスト教信者なのか?」
「遊ぶ暇があったら訓練すべきなのでは」
「電気代の無駄遣いなのでは?」
など

このようにネガティブなコメントではなくても、素直に「すばらしい!」と受け入れてくれない方々もいると思います。

もし、自分たちの考えで良かれと思って勝手に作成し、Youtubeに載せ、ネットで話題になり、炎上した場合は、作成した署の隊員達は組織の懲罰委員会の判断で処罰されるかもしれません。。悲しいですが。。

それでは、地域住民から消防局に対してネガティブなコメントを電話・来所で受けた場合や、ネットを通じて、地域住民にかかわらず、さまざまな人から批判を受けた場合、どのように対応したらいいのでしょうか? 

まず、今まで私が行ってきた『消防組織マネージメント』ワークショップを通じて得たアンケート内容の一部をご紹介いたします。

1、消防組織側が住民対応の解決に苦慮した問題の例

・苦情を行う住民が、具体的な理由や根拠を示すことなく、消防士や消防局への感情的な批判を繰り返し、消防への無理な要求があった。 
・メディア報道の一方的な刷り込み的な強い思い込みから、それに対する消防組織側への質問に対し、担当職員の説明や行動が理解できず、消防局の職員指導の問題と考えての苦情があった。 
・苦情を繰り返している住民自身が、頻繁な電話での苦情や担当者への精神的苦痛、公務妨害などの問題行動を起こしていることに対して、家族や周囲の指摘には耳を貸さず、身勝手な言い分を押し通し、繰り返し続ける。 
・消防局が当事者の一方に寄り添っていると言い張って、話を聞かない。 
・現場活動時に消防隊員への強圧的で恐怖感を与えるような言動で住民が思いどおりの要求を押し通そうとする。 
・法的根拠のない勝手な妄想によるものと考えられる被害等を地域自治会の集まりやSNSなどで訴え続ける。 

2、住民による消防への要望や苦情

・消防局への地域住民サービスに関する期待
・消防局の業務内容や目的、日々の取組についての理解不足
・消防局の業務に関しての偏った提案や不満
・理不尽なもの

3、要望や苦情に対して消防局が準備しておくべき対策は?

・消防職員の社会的コミュニケーション能力を高めておく
・消防職員から地域住民へ、定期的な住民の安全生活に役立つ情報発信を行う
・地域住民や地域社会からの相談、要望への初期対応能力を高める
・消防局が先を読んだ組織対応能力を高め、事態発生を予防し、解決する。
・消防団活動や地域イベント参加を通じて、地域交流のルートを維持・保持する
・「誰が」ではなく「何を」の視点で、地域住民や社会に消防が何をやっているのか?また、これから何を行っていくのかなどをわかりやすく伝える
・消防組織として社会反応への初期対応をどれだけ適切に行えるかが大切
・住民から消防組織へのアプローチは、それぞれのとらえ方次第で「ポジティブな要望」にも「ネガティブな苦情」にもなる
 
4、消防職員レベルでの具体的な住民要望や苦情対策は?

・ 日常的な消防職員と地域住民との信頼関係の構築(不祥事防止など)
・ 電話や駆け込み苦情に対する初期対応を誤らないための住民対応スキルの習得(※否定言葉と肯定言葉の使い分けなど)
・ 消防現場における住民対応スキルを学ぶ局内研修の実施
・ 非番日に消防職員としての住民交流機会を増やす
・ 住民や社会からの要望に向き合うように消防職員の意識を変える

※否定言葉と肯定言葉について

否定言葉:早口、冷たい、痛い、ごちゃ混ぜ、聞き取りづらい
地域住民から何か要求やクレームを言われた時、消防士が言ってはいけない言葉
「でも」「違います」「そんなことはないです」「それはできません」
「どうしてですか」「何をおっしゃるのですか」「(では)どうすればいいのですか」など。

疑問文のように思うからもしれませんが、それらは「私はそれを認めていない」ということを伝える言葉になります。

肯定言葉:ゆっくり、温かい、心地よい、わかりやすい、聞きやすい
地域住民から何か要求やクレームを言われた時、消防士が使うべき言葉
「そうですね」「そうですか」「本当ですね」「それは大変ですね」
「わかりました」「そうだったんですね」「了解いたしました」

これらの言葉はいずれも「お気持ちを受け取りました」「仰っていることを
理解しました」という気持ちが伝わりやすい。まずは、受け止めることが大切。

5、消防士に必要な気持ちの持ち方は?

地域住民の言い分を頭から否定せず、部分的に受け入れながら、事実だけを認め、その事実に対して共感し、どうにか一緒に解決の道を探ろうと懸命に頑張る  消防士の姿勢を住民に見せ続けることが大切。

6、地域住民の苦情・要望の原因をどう捉えるか?
a.住民自身の問題
・苦情の着火点と発火点は別にあることが多い。
 (原因は家庭問題、仕事問題、地域(自治会活動等)の人間関係の問題など)
・我慢できないほどの不満蓄積 (サイレンの音や訓練のかけ声など)
・ストレス発散等、不満のはけ口を対応がおとなしい消防署に向ける。警察へは向けない。 
・過度の行政依存の傾向があり、任せきりで、少しでも不満があると苦情を言う。
・最初は紳士的な姿勢だったが、消防士や消防組織側の初期対応に問題があったため感情的に爆発。
・消防署の対応に不満があったので、その仕返しとして、爆弾脅迫などを行う。

b. 社会的背景
・住民の高学歴化-消防士と対等もしくは対等以上
・問題行動の学習化-自分だけでない、大勢に混じって便乗し、「言わなきゃ損」という風潮の浸透
・公務員に対する批判的見方の進展。公務員は身分が安定しているという、一方的な思い込みなど
・住民の消費者意識の強まり。住民・納税者はお客様扱いされて当然という誤解
・ストレス社会。ストレスの蓄積、ネット情報からの刷り込みや匿名でのネット投稿が可能であり、本人を特定されることが困難なため、ストレス発散や暇つぶしなどの理由で無責任な言動を取る人もいる
・消防局の問題の露呈。問題だけが強調されて見えてしまう
・住民の二極化。自己主義と自子主義

c. 消防局、消防職員の問題点
・住民対応に慣れていない。「前捌き」が下手
・住民から見ると、専門家意識が強すぎる
・隠匿姿勢の残存
・閉鎖性。相談窓口が不明確なため、不満を強めてから苦情に
・人の話をきけない/きかない消防士
・問題を過小評価する傾向。組織の事なかれ意識体質
・社会事情、変化について行けない消防文化
・組織の対応ミスを認めたがらない
・謝り下手(部分謝罪が苦手)なため、全体否定をされてしまうこともある
・受け答えが専門用語が多く、言動がまとも過ぎると受け取られやすいため、理屈責めに聞こえてしまう

【住民への説明のポイント】
・相手をひきつける→興味・関心、必要性、インパクト
・情報を正確に伝える→誤解のないよう明確に
 推測と事実を明確に分ける
・理解を促す→相手の理解の枠組に迫る
・事情や気持ちを伝える→事務的になりすぎないように
・今後のゆくえを明示する→いつまでに、なにが
 どうなるのかを示す。期日を決めて約束は守る。
・複数の説明方法を用いる→電話だけでなく、直接対話も大事。消防士も複数で説明し、記録する。

数々の意見を戴いたが、実際に住民苦情に対応された消防職員の方々から、下記のようなグループワークの発表を得ている。

・住民対応は心で行うこと。頭で行うとこじれることが多い
・初期対応でパニックにならないように落ち着いて対応すること
・興奮したり、怒っている住民の感情ペースに乗らないこと
・スマホでビデオ撮影されているときもあることを知っておくこと
・何よりも予防が大切。予知、予測、予見を常日頃から行うこと
・コミュニケーション力を上げるには様々な地域イベントに積極的に参加すること
・電話応対は見えない分、相手の心をイメージして行うこと
・できるだけ、複数で対応し、対応内容の経緯を記録し、共有すること


など


いかがでしたか?

消防局によっては、『消防組織マネージメント』ワークショップ後に職員の意見や体験を元に「消防の住民対応マニュアル」を作成し、具体的な会話集などを用いて、応酬話法的な消防職員の実践教育を行っています。また、さらに「消防のメディア対応マニュアル」も作成し、幹部教養等で教えています。

いつも思うのは、自分の所属する消防局で活躍する未来の消防士達に何を残すか?を現役消防職員がしっかりと考え、具体的な形にして手渡すことも幹部の仕事のひとつでは無いか?組織課題を残したまま去って行くのでは無く、一つでも解決して去ることが幹部の責任でもあるように感じます。

一般社団法人 日本防災教育訓練センターが行っている『消防組織マネージメント』ワークショップの内容は下記でご覧いただけます。

下記の資料は12月6日に静岡県消防学校での幹部教養で行った内容例です。
http://irescue.jp/PDF/FD_Managemrnt.pdf

グループの課題については、その消防局や消防本部が悩んでいる課題やこれから改善していきたい課題に置き換え、また、後半は住民対応が必要ない場合は、不祥事対策、財政対応、予算の合理化、副職問題、救急車の有料化など、さまざまな内容でお話しできます。

それでは、メリークリスマス!

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
http://irescue.jp
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