国総研による研究・技術開発

現在、国総研土砂災害研究部が取り組んでいる研究・技術開発の事例を2つ紹介する。

(1)大規模土砂生産後の土砂動態と流砂系土砂管理
深層崩壊等の大規模な土砂生産が生じると流域からの土砂流出が多い時期が一定期間続くことが知られている。紀伊半島大水害(2011年)では、奈良・和歌山・三重県において約1億m3の崩壊土砂量が発生したが、その後、新宮川水系では多量の土砂流出により河床上昇が顕著となり、国交省及び3県が河道掘削を実施している。これまで(2016年9月現在)熊野川および支川において約510万m3の河道掘削を実施済みであり、総計約640万m3を掘削する予定となっている。

国総研では常願寺川(1858年・飛越地震)、酒匂川水系中川川(1923年・関東大震災)、小渋川(1961年・出水等)、揖斐川(1965年・1975年の出水等)、王滝川(1984年・長野県西部地震)、姫川水系浦川(1995年・出水)、芋川(2004年・新潟中越地震)、迫川(2008年・岩手・宮城地震)など豪雨・地震で発生した大規模土砂生産事例(11流域)について、空中写真、河床変動測量、ダム堆砂量等のデータを収集し、生産土砂量と流出土砂量の関係、影響期間等について分析した。

全国11流域の事例を分析した結果、豪雨を起因とする大規模土砂生産では、影響期間内の流出土砂量が生産土砂量の平均8割程度となり、地震の場合は2割程度となった。豪雨の場合の影響期間は10年以下がほとんどであるが、地震の場合は100年を超えるものもある。地震の場合は大規模土砂生産時の河川流量が多くないことや天然ダムの形成等により土砂流出率が小さくなるものと想定される。

今後は、大規模土砂生産後も流域内に残留する土砂について、空中写真、LiDAR等を用いて残留する場の特徴を整理するとともに、粒径、降雨量、流域面積、河床勾配等の関係を分析し、大規模土砂生産後の土砂動態の推定手法や砂防施設の効果評価手法の高度化を図り、流砂系の総合土砂管理に資する技術の開発を進める。

(2)同時多発の土砂災害をもたらす集中豪雨発生場と切迫性の評価
現在、土砂災害の警戒避難については、県と気象台が共同で土砂災害警戒情報を発表した場合は、市町村長は直ちに避難勧告等を発令することを基本としている。また、市町村においては避難勧告等を発令する区域等をあらかじめ定めておき、国・県から提供されるメッシュ情報等を踏まえ、危険度が高まっている区域に対し的確に避難勧告等を発令することが望ましいとしている。しかし、土砂災害警戒情報が発表されても避難勧告等が発令されない事例、区域を限定することなく市町村全域に避難勧告等を発令する事例などが散見される。市町村からは夜間の避難勧告等を躊躇する声、土砂災害警戒情報後さらに危険が増した区域の情報も提供して欲しいとの声を聞くところである。

一方、広島土砂災害(2014年)はじめ、甚大な人的・物的被害に至る災害は「線状降水帯」に伴い発生する事例が少なくない。数日前から予測可能な台風等に比べ、線状降水帯に伴う集中豪雨は突発的に発生するためリードタイムをもった予測が難しい。2006~15年の市町村当たり5人以上の人的被害又は5戸以上の全壊家屋が生じた土砂災害17事例(市町村単位)を対象に、線状降水帯の有無と人的被害を調査すると、線状降水帯を伴う人的被害総数はその他の13.3倍、1事例当たりでは4.1倍大きい。

このため、国総研では線状降水帯の形成ポテンシャルの評価手法、土砂災害警戒情報の発表基準を超過した区域の中で、特に危険度の高いエリアを特定する手法等を研究している。K指数(気象用語)、可降水量など線状降水帯の形成に影響を及ぼすと考えられる指標を複数評価し、例えば2014広島災害の12時間前には、K指数の分布により線状降水帯の形成域がある程度推定できる。これにより、土砂災害警戒情報の発表6~12時間前から自治体の防災体制の強化等に活用することが想定される(例えば大雨注意報等が発表される前に注意体制に入るなど)。

また、土砂災害警戒情報の閾値の設定に用いるRBFN出力値の履歴順位を用いることで、閾値を超過した区域のうち特に危険度が高い地域を特定することが可能となる。これは避難勧告等を発令した後、特に危険度の高い区域に対する避難指示等に活用することが想定される。

今後は、地形・地質等の情報も組み合わせ、さらに精度が高く切迫性のある警戒避難情報の提供について研究を進める予定である。

国総研では研究成果が国・地方自治体における土砂災害対策の実務に利用されるよう、関係機関との協議を通じてニーズを的確に把握し研究活動を進めることとしている。また、少子高齢化、生産性革命等の観点から、ロボット技術を活用した火山噴火、深層崩壊等の大規模災害時の緊急ハード・ソフト対策技術、新たな砂防施設の建設技術(i-Constructionや新材料、プレキャスト化等)、長寿命化に向けた点検診断技術、補強・補修技術等の開発も重要な課題と認識している。さらに、イノベーションを推進するため、他の研究機関、大学、民間企業等との共同研究等を積極的に進め、AIなど新たな技術の活用も促進する方針だ。