さらに、この総合防災拠点と連動する形で、今年の4月から県内を5つのブロックに分け、「南海トラフ地震対策推進地域本部」を設置。県危機管理部所属の職員を各地域本部にそれぞれ3~4人配置する取り組みを始めた。災害対策について、さらに市町村と県の連携が不可欠との判断から、通常では総合防災拠点の整備や市町村の防災対策の支援などを行いながら、発災時には各地域本部が管内の出先機関と連携しながら「災害対策支部」として活動し、総合防災拠点の運営のほか、情報収集や市町村支援の調整を行うという。

ソフト面でもさらに一歩先へ 


高知県はソフト面でもさらに一歩進んだ取り組みを始めている。2013年に市町村が策定した、津波の恐れのある沿岸部の全ての地区(19市町村、508地区)の「地域津波避難計画」について、避難が実効性を伴うかどうかを、県が主体となって「図上点検」を実施した。市町村が策定した避難計画を県が点検する作業は非常に珍しい。市町村の避難計画を認めたことにより、機能しなかった時の責任が県にも及ぶ可能性があるからだ。しかし、市町村からしてみれば県の基準に基づいて施設整備を実施しているので、その効果について県がチェックするのは効果的だという考え方もある。高知県はこの事業に6月補正予算で560万円を計上した。 

図上点検は綿密だ。昼間時の移動速度を0.7m/秒、夜間時の移動速度を0.56m/秒と試算し、さらに東日本大震災避難実態調査結果により、歩行困難な同行者がいた場合の移動速度は0.42m/秒とし、避難所から同心円を描いて実効性を検証。円より外側に位置する被災者には避難路などの追加整備や夜間訓練の実施による避難時間の短縮、避難に必要な資器材の整備など、さらなる追加対策を促している。 

このほか、阪神・淡路大震災では「揺れ」東日本大震災では、「津波」、関東大震災は「火災」による死傷者が多かったとの教訓から、今年から住宅密集地における地震火災対策の検討も始めた。過去に実際に住宅密集地で火災が発生した四万十市をモデルケースに、住宅密集地での火災シミュレーションを行う計画だ。同時に東日本大震災の教訓として地震が発生したらブレーカーが落ちる「感震ブレーカー」の普及啓発も実施している。津波火災対策としても漁業用屋外燃料タンクの支援や、農業用重油流出防止装置付きタンクの開発と整備の導入支援を始めた。

被災した県民の命を総力戦で守り抜く 


今年から開始した「命をつなぐ」取り組みの中で、もう1つの目玉が医療救護体制の整備だ。3万6000人の負傷者が発生した時に、どのように医療体制を構築すればいいのか。高知県では「被災した県民の命を総力戦で守り抜く体制の構築」を目指し、地域の限られた資源を最大限に活用しながら、より負傷者に近い場所において「前方展開型」の医療救護活動を実現するための取り組みを進めている。 

具体的には①既存の医療機関や医療救護所が被災しても必要な機能を維持、②医療従事者をはじめ多くの県民の医療救護活動への参加、③必要な機材・薬品、輸血用血液を確保、④県外からの人的・物的支援の確保と患者搬送手段の確保、の4つを挙げ、医療救護所整備強化事業や地域災害支援ナース育成研修事業など新規に計1億7300万円を予算化した。さらに有識者懇談会の設定や災害時医療救護計画の見直しを図り、目指すべき姿に向けた対策の検討を促進するという。

2007年12に始まった尾﨑県政も現在2期目。そのリーダーシップにより、県の災害対策のクオリティは年々加速している。このクオリティを今後有効に活用し、さらに進化させていくことが、高知県に住む人々の今後の大きな課題になるかもしれない。