(イ)自社の事業環境を整理する

自社が元請けからの要求に対応する上で、必要な条件を整理しようとすると、そもそも自社の事業内容が把握されていないことがある。例えば、各元請け企業からの発注に対して、人だけ確保すればいいのか、それとも車が必要なのか、部品は自社調達しているものを使うのか、現場支給なのか、緊急事態が終わった後も継続して工事を発注してもらえるかといった細かい点が十分把握されていないことがある。

もちろん緊急事態においては、諸々の条件が急に変わることは珍しくないが、日頃、自社が行っている事業内容を契約書と現場の慣行に基づいて整理しておくほうが事業継続に向けた方針を検討する上で有意義である。

(ウ)必要な経営資源の確保手段を複数持つ

緊急時に元請け企業からの発注が急増するのであれば、対応する経営資源を確保しなければならない。発生した緊急事態の影響により、従業員が出勤できなくなることや、自社の保有設備が使用できなくなることは珍しくない。

よく見かけるBCPとして、安否確認を速やかに行い、出勤できる従業員を把握して、元請けに連絡するというプロセスを明確にしているものがある。しかし、これは経営資源の確保手段の一部でしかない。必要な経営資源の確保手段を複数検討し、事前に準備しておくと、緊急事態であっても自社の事業を継続できる可能性が高まる。

協力会社にとっては、現場に送り込める人を極力最大化することが自社の事業継続を考える上での出発点となる。このためには、自社の施工人員を最大限活用するとともに、臨時に雇用できる労働力があれば、これも選択肢に加えられるように準備しておくことが考えられる。退職者でも勤務が可能な人物がいれば声をかけるという選択肢も考えられる。また、大きな被害を受けた同業他社から人員だけを融通してもらうという選択肢も考えられる。

ある設備工事会社の事例であるが、この会社では、施工要員は、特定の資格を保持し、元請け会社に事前に登録することが求められている。そのため、事前登録されている従業員以外が、施工工事にあたることが難しい状況にあった。そこで、BCPが発動された場合、施工に直接従事できる従業員を最大限有効に活用するため、資材搬送など施工工事に直接かかわらない業務は、乗用車の運転ができる従業員の家族などを臨時に雇用する準備をしている。

施工に使用している車両は、一般的な軽トラックであり、通常の自動車運転免許を保有していれば、誰でも運転ができる。従業員や家族が持つスマートフォンをそのままカーナビとして活用できるよう、同社の軽トラックには、車載ホルダーが設置されており、複数の機種に対応する車内充電器も搭載されている。元請けには、上記を説明し、事前に了解を得ているとのことである。

4)プラスワンの視点

今回紹介した「施工部隊を最大限確保する手法を元請けと協力会社でそれぞれ講じておく」という手法は、設備工事業の事業継続に向けて短期的に重要な項目である。

一方、長期的に考えると、協力会社としては、事業拠点を複数持つ規模までに自社の事業規模を拡大していくことが自社の事業継続をより確実にしていくために重要な要素となる。複数の事業拠点を保有しているのであれば、ある拠点が被災しても、別拠点からの支援により事業継続をより確実なものにできるからである。

加えて、一社からの受注に特化した事業環境を持つ企業であれば、複数の企業からの受注が可能な構造への切り替えも選択肢の一つとして検討する必要がある。元請けがどれだけ強固な企業に見えても、一社からの発注に依存する事業環境は変化に対して脆弱である。競争環境が目まぐるしく変化する今日、常に状況の急変に備えて、異なる収益源を複数確保しておくことは、自社の事業継続に向けて重要だと考える。

※本文中、意見にわたる部分は、筆者の所属する組織の見解ではなく、筆者の個人的な見解です。

<参考資料>

中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」
東京商工会議所「東京商工会議所版BCP策定ガイド」及びパンフレット「BCPを作って信頼を高めよう」
内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン(第三版)」
一般社団法人日本建設業連合会「建設BCPガイドライン(第三版)

(了)