専門店しか分からない生活防災商品 
「商店街には、生活に必要なものが何でもそろっている。国崎氏の話を聞いて、“商店街ができる防災活動はこれしかない”と直感した」と久保氏は話す。 

石井氏と久保氏は、地域の消費者を募って「生活防災商品探し隊」を結成。商店街1軒1軒をまわり、「生活防災」をキーワードにそれぞれの専門店にある「防災に役立つ商品」を探し出し、「しもたかマップ」に掲載していった。その中には、専門店ならではの思いもよらない発想もあったという。 

例えば、備蓄などとは縁遠いとされる生鮮食品店。しかし見方を変えれば、リンゴや梨は日持ちするため、普段から少し多めに家庭に買い貯めておくだけで災害時の栄養補給になるという。備蓄食料というとアルファ米やカンパンなどを思い浮かべるが、東日本大震災では避難所生活の栄養の偏りによるビタミン不足で、口内炎にかかる被災者が多数発生したという報告もある。 

生花店では、従業員から木の皮で作った植木鉢が防災商品として提案された。震災時には、タンスや本棚など、あらゆるものが凶器となって人を襲う。陶器製の花瓶や植木鉢を柔らかい材質のものに変えるだけで、危険度を減らすことができるという。 

眼鏡店では、花粉症対策の眼鏡が、震災時に粉じんなどから目を守るゴーグルとして使用でき、がれきの撤去などをする場合にも有効だと教えられた。専門のゴーグルよりも安価に入手できる。 

「防災コーナーで売られているものは、実は防災商品のほんの一部にしか過ぎない。暮らしの中で、全ての商品に対して、少しずつ防災を意識しながら選定することが大切なのでは」(久保氏)。 

現在は「しもたかマップ」をさらに改良して読みやすくした「しもたか商店街生活防災ハンドブック」を作成。商店街で無料配布している。今後の課題は商店街によるBCP策定 生活防災の考え方を、さらに商店街の活性化に結び付けるために企画したのが、昨年開催した生活防災フェアだった。 

「実は1年前にも同じようにカードを貼ってくださいとお願いしたが、やはりお店側も生活防災に関して関心が薄く、なかなか貼ってもらえなかった」(久保氏)。今回はフェアという形態をとることで、店の売上にも貢献できればと久保氏は期待する。フェア終了後に参加店にアンケートをとり、来年につなげたい考えだ。 石井氏は「将来的には、商店街で各商店のBCP策定に取り組みたい。本当は最初にBCPを作ろうと思ったが、商店街は商人の自然集合体のため、まとめるのが難しい。まず防災に関心を持ってもらい、意識を高めることが先決だと考えた」と話す。 

商店街が元気な地域は治安も良く、自殺者も少ないという統計があるという。東日本大震災の時には、小学生の子どもを持つ母親が「学校帰りには下高井戸商店街を通る。何かあっても商店街が守ってくれると思った」と話すほど、地域住民の商店街に対する信頼は厚い。その信頼に応えるためにも、石井氏は下高井戸商店街の防災活動に、なお一層取り組んでいく考えだ。