トランプ氏の決断によって、米国先制攻撃は十分にあり得るという(写真:Flickr)

米国先制攻撃の根拠となる「ブッシュ・ドクトリン」
日本も巻き込まれる?

金正恩氏はミサイル開発について、自分たちの体制を維持するためという明確な意図があり、北朝鮮における安全保障上の問題であるとしている。そのことについてCIAをはじめ、アメリカのインテリジェンスは「合理的な判断」とみており、金正恩氏も「クレバーである」という判断で一致している。そのため、北朝鮮からの先制攻撃はないだろうというのが一般的な見方だ。可能性が高いのは米国が先制攻撃を行い、それに対して北朝鮮が報復攻撃を行うというもの。これについては前例もある。

2001年、米国同時多発テロ事件で痛手を負った時の米国大統領ジョージ・W・ブッシュ氏は、「テロリストおよび大量破壊兵器を拡散させかねない『ならず者国家』に対し、必要に応じて先制的自衛権を行使し得る」という「ブッシュ・ドクトリン(予防戦争・先制攻撃主義)」を掲げ、2003年にイラク戦争に突入した。もちろんこの新戦略思想に対して批判は多いものの、北朝鮮が核兵器実践配備を宣言すれば、米国が先制攻撃を仕掛ける理由として十分なのだ。そして間違いなく、米国が先制攻撃を仕掛ければ北朝鮮は報復活動に出るだろう。

しかし、本来であればこの戦争は北朝鮮と米国のもの。日本が巻き込まれる可能性はあるのだろうか?福田氏は「北朝鮮が報復に出るとすれば、特殊部隊によるテロ、サイバー攻撃、そしてミサイル攻撃が考えられる。その場合、アメリカを攻撃するということは、まず日本に点在する在日米軍を攻撃するという事態に発展する可能性は非常に高い」と分析する。沖縄はもちろん、在日米軍司令本部のある神奈川県横須賀市、海軍基地となる長崎県佐世保市や海兵隊を擁する山口県岩国市、空軍のある青森県三沢市なども標的となる可能性があるのだ。ミサイル問題は、やはり日本の国家安全保障問題として取り組まなければいけない、いたって現実的な問題であることが分かるだろう。

「約10分間のクライシスコミュニケーション」ミサイル発射に対するJアラートの情報伝達(資料提供:福田研究室)

ミサイル危機は時間との闘い

さて、日本の国家安全保障がどうあるべきかについてはほかに議論を譲るとして、ここでは現実的にミサイル危機に私たちはどう立ち向かわなければいけないかを考えてみよう。ミサイル危機の特徴は、災害と違って「発射の瞬間を目で見ることができない」ことだ。そのため情報の伝達はJアラート(全国瞬時警報システム)などのメディアに頼らざるを得ず、さらにミサイル発射から東京に着弾するまでは7 ~ 8分。発射からJアラートが作動するまで5分前後かかると言われており、国民がとれる対応行動は2 ~ 3分の猶予しかない。なぜ発射からJアラートが鳴るまで5分もかかるのだろうか。

「それはよく学生からも聞かれる質問だ。実はミサイルが発射した事を最初に捉えるのは、米早期警戒衛星と呼ばれる米国の軍事衛星か、もしくは自衛隊のイージス艦の情報。それがまず防衛省に伝わり、官邸の危機管理センターに連絡される。実際にJアラートを管轄するのは総務省消防庁なので、官邸から消防庁に発信され、それがJアラートとなって関連する自治体に届き、住民に周知される(上図参照)。この流れは一見もどかしいが、短縮はできない」(福田氏)。

それでは国民は2分の間に、いったい何ができるのか。次回考察していく。

(続く)

■北朝鮮のミサイル問題に組織はどう立ち向かう?(下)
ミサイルにも、地震のBCPが応用できる
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5038

リスク対策.com 大越 聡