2015/05/25
誌面情報 vol49
海外出張のリスク回避で最も大切なことは、「危険な場所に近づかないこと」だ。しかし、今年1月にはフランス・パリ11区にある週刊新聞「シャルリー・エブド」の編集部を複数の武装した集団が襲撃。警官や編集長など12人を殺害した。3月にはアフリカの中でも比較的安全と言われていたチュニジアの首都、チュニスのバルド国立博物館で外国人観光客が武装した男2人に襲われ、日本人5人を含む22人が死亡、42人が負傷している。日本も含め、これからの世界に「絶対に安全な場所」は存在しない。安全サポート株式会社が提供する「ハイリスクエリア危機対応訓練」に参加した。全てを書ききれないが、本稿ではそのハイライトを紹介する。
「Look Down!! Look Down!!」 (顔を下にしてうつむけ!) 突然バスが止められ、武装した覆面姿の男たちが乗り込んできた。私は両手を頭の後ろに組み、頭をさげた。抜き打ちで行われる「身代金目的誘拐訓練」が開始されたのだ。訓練の一環と分かっていても、車内に緊張が走る。 ハイジャック犯は、自分の顔を見られることを極度に嫌うとともに、まず人質を自分の支配下に置くために矢継ぎ早に、そして高圧的に命令を下す。全員にマスク とヘッドホンが付けられ、視覚と聴覚を奪われる。聞こえてくるのは犯人たちの怒号だけだ。そして一人ひとりを後ろ手にし、拘束具で固定する。 バスから降ろされ、道路にひざまずく。犯人は拙い英語で怒鳴るため、「Kneel!」が「ひざまずけ」を意味するものだと理解するのに、少し時間がかかった。人間はハイストレスにさらされると、視覚や聴覚が落ち、普段なら分かる英語 も聞き取れないことがあるという。しかし、危機が訪れた時に言語が通じないのは致命的だ。1992年にはアメリカで「Freeze!」(「動くな!」)と いう意味の単語がわからずに射殺された服部剛丈君の例もある*。ハイジャック犯やテロリストは人質を自分の支配下に入れるため、襲撃当初は必要以上に暴力 的になる。言葉が分からなかったために犯人の言動に従わず、 反抗的とみなされてしまえば、それだけで見せしめの意味も込めて殺害される危険性もある。 「目立たない人物になること」。テロリストに遭遇した場合に最も大切なことだ。 道路にひざまずくと、1分もたたずに膝から足首にかけて 痛みが走る。日ごろの運動不足が恨めしい。後ろ手を縛る拘束具も手首に食い込む。実は先刻までは「ここでブルース・ウィリスだったらどうするかな?」など と考えられるくらいの心の余裕があった。しかしまだ本番はこれからだった。長い時間が始まろうとしていた。 |
*1992年、当時高校生だった服部君は、留学生として米国ルイジアナ州に滞在中、現地のハロウィンパーティで間違った家を訪問してしまい、その家の家主に銃口を突きつけられて「Freeze!」(動くな!)と警告された。しかし彼はその意味がわからず、微笑んで「パーティに来たんです」と説明しながら近づいたところを撃たれ、出血多量により死亡した。
オーストラリア特殊部隊出身者による危機管理訓練
「ハイリスクエリア危機対応訓練」は、テロ・誘拐・銃撃戦・強盗といったリスクの高い地域に赴任する駐在員や出張者向けに設計された3日間のトレーニング・プログラムだ。ピストル実射訓練も含むため、フィリピン・ルソン島で開催され、トレーナーはオーストラリア特殊部隊出身者が務める。筆者は2015年3月下旬、訓練を受けるために成田空港から4時間半ほどのフィリピン・マニラ国際空港に降り立った。フィリピンは思ったほど暑くはなく、半袖だと少し肌寒いほどだった。
Day1
安全講習と応急処置、ピストル理論・実技
初日はまずホテル内の会場で安全講習から始まった。
誌面情報 vol49の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方