海外出張のリスク回避で最も大切なことは、「危険な場所に近づかないこと」だ。しかし、今年1月にはフランス・パリ11区にある週刊新聞「シャルリー・エブド」の編集部を複数の武装した集団が襲撃。警官や編集長など12人を殺害した。3月にはアフリカの中でも比較的安全と言われていたチュニジアの首都、チュニスのバルド国立博物館で外国人観光客が武装した男2人に襲われ、日本人5人を含む22人が死亡、42人が負傷している。日本も含め、これからの世界に「絶対に安全な場所」は存在しない。安全サポート株式会社が提供する「ハイリスクエリア危機対応訓練」に参加した。全てを書ききれないが、本稿ではそのハイライトを紹介する。

「Look Down!! Look Down!!」
(顔を下にしてうつむけ!)

突然バスが止められ、武装した覆面姿の男たちが乗り込んできた。私は両手を頭の後ろに組み、頭をさげた。抜き打ちで行われる「身代金目的誘拐訓練」が開始されたのだ。訓練の一環と分かっていても、車内に緊張が走る。

ハイジャック犯は、自分の顔を見られることを極度に嫌うとともに、まず人質を自分の支配下に置くために矢継ぎ早に、そして高圧的に命令を下す。全員にマスク とヘッドホンが付けられ、視覚と聴覚を奪われる。聞こえてくるのは犯人たちの怒号だけだ。そして一人ひとりを後ろ手にし、拘束具で固定する。 

バスから降ろされ、道路にひざまずく。犯人は拙い英語で怒鳴るため、「Kneel!」が「ひざまずけ」を意味するものだと理解するのに、少し時間がかかった。人間はハイストレスにさらされると、視覚や聴覚が落ち、普段なら分かる英語 も聞き取れないことがあるという。しかし、危機が訪れた時に言語が通じないのは致命的だ。1992年にはアメリカで「Freeze!」(「動くな!」)と いう意味の単語がわからずに射殺された服部剛丈君の例もある*。ハイジャック犯やテロリストは人質を自分の支配下に入れるため、襲撃当初は必要以上に暴力 的になる。言葉が分からなかったために犯人の言動に従わず、 反抗的とみなされてしまえば、それだけで見せしめの意味も込めて殺害される危険性もある。 「目立たない人物になること」。テロリストに遭遇した場合に最も大切なことだ。 

道路にひざまずくと、1分もたたずに膝から足首にかけて 痛みが走る。日ごろの運動不足が恨めしい。後ろ手を縛る拘束具も手首に食い込む。実は先刻までは「ここでブルース・ウィリスだったらどうするかな?」など と考えられるくらいの心の余裕があった。しかしまだ本番はこれからだった。長い時間が始まろうとしていた。

*1992年、当時高校生だった服部君は、留学生として米国ルイジアナ州に滞在中、現地のハロウィンパーティで間違った家を訪問してしまい、その家の家主に銃口を突きつけられて「Freeze!」(動くな!)と警告された。しかし彼はその意味がわからず、微笑んで「パーティに来たんです」と説明しながら近づいたところを撃たれ、出血多量により死亡した。

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