病院へのタクシー代わりに救急車を呼んでいる人もいるようです (※画像はイメージです。Photo AC)

近年、救急車の不適正な利用が大きな社会問題になっています。総務省消防庁の統計によると、2016年度は救急出場件数が7年連続で過去最多を更新を更新しました。毎年平均54%が緊急性のない通報で、依然として救急搬送された半数以上が入院を要さない状況など、タクシー代わりに救急車を呼んでいる人もいるようです。

救急車を呼ぼうか迷った人の相談も増え続け、救急相談センター「#7119」が救急車の適正利用に一定の役割を果たしているものの、土日や休日、夜間は対応職員が少ないのかなかなか電話が通じず、症状に応じて紹介された病院候補も担当医が不在などのケースも多く、結局は119番に通報し、救急車を利用することになる事例もあるそうです。

救急車の不正利用は、指令センター職員が通報から、明らかに緊急性のない内容はタクシーの利用を勧めたり、#7119に相談するよう通報者に促しますが、上手く判断できない場合は、出動させ、かかりつけの病院などがない場合は、現場の救急救命士の判断で、搬送先病院を選定します。

市民からの救急要請は中には、タクシー代わりの悪質なものも見受けられますが、大部分は市民からのSOSであり、結果として軽症となることはあるものの行政として対応するべきであると考えられますが、救急車の適正利用を考える上で最も問題視する必要があるのが、転院搬送ではないでしょうか。

そこで救急車の不正利用対策について、何通りもの考え方や予算にかかる構成要素を検証した上でのエビデンスベースの計算方法ではないかもしれませんが、全国の消防関係者らと「転院搬送の有料化について」の話をしていくなかで、議論や具体的価格設定のベースに使える程度の方策としてご紹介いたします。

救急隊の維持費用は、救急隊1隊の増隊費用の考え方として、救急車1台と高度救命用処置資機材等購入費用が全国平均で約3500万円程度、救急隊1隊を維持するための人員(2部制で)10人の人件費等が年間8300万円程度で合計1億1800万円となります。

救急車1台は入札価格(毎年度1台更新)で各市町村によって仕様が異なり、価格もメーカーや積載資機材、更新年数によっても異なるものと思われます。維持費用に関しては、「高速自動車国道における救急業務に関する覚書」に基づき毎年度支弁金算定に用いる基礎数値が消防庁救急企画室長から発出されており、全国的な統一数値として使用できると思います。ちなみに2017年度の上記覚書による「救急隊1隊を維持するために要する費用」は8279万円となっております。(平成29年4月19日付け消防救第57号)

■第2章 消防防災の組織と活動:救急体制(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/html/hakusho/h29/h29/pdf/part2_section5.pdf

これらを東京消防庁の2017年度の救急件数にあてはめますと、下記のとおりとなります。

■救急隊の運用年間費用(東京消防庁:251台 ※高規格含む)
8279万2000円×251台=207億8079万2000円

■1件当たり(2017年中の救急件数77382件)の金額
207億8079万2000円÷77万7382件=約2万6732円


東京消防庁の救急出動件数、620万9964件のうち8.4%の52万1636件が転院搬送であり、救急車1台が1回片道出動するコストは約2万6732円。

転院搬送にかかるコストは、52万1636件x約2万6732円=139億4437万3552円であり、現時点では、依頼した病院の自己申告で患者の病状までの書類添付は必要なく、毎年、無償で行っています。

■平成29年版 救急救助の現況(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/kyukyukyujo_genkyo/h29/01_kyukyu.pdf

■平成29年中の救急出場件数が過去最多を更新(東京消防庁)
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-kouhouka/pdf/300110.pdf

■消防現況(東京消防庁)
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-kikakuka/toukei/69/data/01.pdf

■救急出動状況(東京消防庁)
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/ts/ems/page01.html

ただし、この計算を全国すべての消防本部に当てはめると1隊当たりの救急件数が少ない消防本部ほど多額となります。(下記の平成29年度消防現勢(救急)リンク参照)例えば最近、国が推奨している広域消防で現場到着時間、病院到着時間を縮めるために多くの救急隊を配置している等が該当します。貴重な救急資源を消費しているから仕方ないのかもしれません。

日本全国の消防本部、局、組合なども下記のデータで1件当たりの出動コストと見なされる計算が可能です。

■平成29年度消防現勢(救急)から作成したエクセルファイル(日本防災教育訓練センター)
http://irescue.jp/XLSX/H29_shoubou_gensei_Kyuukyuu.xlsx

また、上記覚書の数値によらず、前年度決算からの算出ですので決算科目を指定すれば、救急に関する全ての費用(人件費、資器材整備費、備品購入費、研修費等)を合算しても救急1件当たりの経費は算出可能だと思います。

この辺の算定は、総務省消防庁等お役人の手に係れば上手に補正係数等を算出してくれると思いますが、根幹は、救急隊の維持にいくら要しているかに置きます。

その補正係数についてですが、前述しました、「高速自動車国道における救急業務に関する覚書」でも「インターチェンジ所在市町村の一般区域における救急件数」「高速自動車国道への平均出動件数の割合」「インターチェンジ数」等で補正係数を設けており、傷病程度(重症:×0.25、中等症:×0.5、軽症:×1.0)、同乗者(ドクター:×0.25、看護師:×0.5、その他:×1.0)などに加え、各消防本部における転院搬送率(転院数/全救急件数)なども補正係数として使用できると思います。

特に転院搬送率は各市の病院の状況による左右されるため微妙なさじ加減が必要になりますが、この辺りは優秀な官僚の方々に託し、考え方さえ示せば、全国的に格差がない程度にまとめてくれるのではないでしょうか。考えてみれば国民が各病院で請求される医療費もポイントですから。

次に、最も面倒となる徴収方法ですが、転院搬送した消防機関が患者各自に請求したのでは事務が煩雑になりますので、4半期等で転院搬送元病院への一括請求とします。

搬送元病院は、救急搬送費を含めて治療費を患者に請求するシステムを取っておきます。これは、医師会や厚生労働省とのネゴが必要となりますが保険適用とした方が患者負担も少なくなると思います。

予算計上は前年度の年間費用から出した救急1件当たりの費用に前年度の転院搬送数を乗じて次年度の歳入予算として計上することが可能です。

偶然か、民間救急会社が先読みして、価格を設定しているのかは未確認ですが、都内の某民間救急を利用し、都内の第3次救急病院から、隣接市の市民病院へ患者を搬送した場合の概算は次の通りです。(見積もりを取ったわけではありません)

某民間救急サービス→都内の第3次救急病院→隣接市の市民病院→某民間救急サービス 総経路:36.3kmとした場合

運賃 :15kmまで:5280円
15km以上:(36.3km-15km)÷7.5km×2080円=5907円
救命士2名:(@36000円)×2×2時間=14400円
ストレッチャー1台:5000円
一般介助:500円×2人×2回=2000円

合計32587円


考え方によっては、民間救急の方が廉価であることで搬送依頼が民間救急に流れれば、救急資源の確保や産業の育成にもなりますし、消防職員OBの再就職先や最近増えつつある大学や専門学校の救命士課程の修業性の就職先も確保されるかもしれません。

また、この考え方の延長線上で、同じ要領で計算すると、いずれは緊急性のないアニマルレスキューの有料化などについての具体的な1回当たりの救助車両や消防車両の出動コストなども算出できると思います。

転院搬送については、依頼した病院に対して書類等で要請条件を厳しくしていますが、それでも、思うような抑制結果には達していない現状にあるようです。

■消防機関が行う転院搬送の要請に関する要領(東京消防庁)
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/kk/syobyo/syobyo_bekki3.pdf

転院搬送等、救急車の有料化については、関係者によるさまざまな工夫が必要だとは思いますが、関係行政機関がもっと具体的なアイデアをもとに歩み寄って、少しずつ、できる限りのことを実現していくことで、地域住民から託された税金の合理的な有効活用に繋がるなど、現状の消防財政問題を改善できるのではないかと思います。

(了)


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