スマートホンで河川の状況をリアルタイム監視する


中低圧の産業用ホースと継ぎ手で国内大手のトヨックス(本社:富山県黒部市)。自社工場では年間3万2千キロに及ぶホースを生産しているが、実は本社工場が3方を川に囲まれ、1985年の工場設立当初から水害に悩まされてきた過去を持っていた。東日本大震災を機に本格的にBCPの策定を開始し、現在では全社を挙げて徹底した水害対策BCPを策定している。「できることを、とことんやり続け、社員の命と生活を守る」同社の取り組みを取材した。

トヨックスは昭和38(1963)年創業。当時は「東洋化成」の社号でホースの生産を開始した。その後、顧客の要望からホース用継ぎ手の開発を開始。現在では国内6拠点、海外1拠点を構え、従業員は321名(2017年9月1日時点)の企業に成長した。売り上げは今年80億円を超える見通しだ。

 
トヨックスが生産するホースと継ぎ手

同社が本格的にBCPの取り組みを開始した直接のきっかけは、2011年の東日本大震災。それまでも08年のインフルエンザ対策などで在庫の補強などはしていたが、「東日本大震災では工場に直接の被害はなかったが、取引先の主原料メーカーが茨木県鹿島市で被災し、塩ビホースの原料がストップ。復旧するまでに半年かかった。生産を続けるために、代替品として提携していたイタリアの会社から原料を仕入れたが、6千万円超の運賃が掛かった。その時の教訓から複数購買をはじめ、本格的なBCPの策定に取り掛かった」と、同社常務取締役 製造本部長の林芳裕氏は当時を振り返る。

「たまたま当時、お客様に当社に関する顧客評価アンケートを取ったところ、当社の「納期厳守」の取り組みを高く評価してもらっていた。そのため、災害があっても納期を守れる体制を作りたいと考えた。さらに、当社は業界での採用率は60%以上の実績がある。メーカーとしての供給責任は重大だと感じている」(林氏)

水害から社員と会社を守る

工場の3方を川が取り囲んでいる

同社のBCPの目的は「社員の命と生活を守ること」、「会社の操業を守り、顧客の信頼を守ること」とした。そして製品出荷不能で想定されるシナリオは①顧客の複数購買への移行 ②顧客からの取引停止 ③売り上げ減少からの倒産の危機 としている。

ではなぜ水害優先なのか。林氏によると地震対策も非常に重要だが、1985年7月に完成直前の現在の本社工場が近くの河川氾濫で浸水して以降、同社はたびたび水害に悩まされてきた。そのため経営判断として、過去の経験から地震対策よりも水害対策を優先させ、取り組むことに決定した。

川が氾濫する場合、真っ先に氾濫する場所は経験上わかっているという。そのため、まずその危険カ所に対して雨量監視と警報メールシステムを導入した。センサーを導入し、雨量30mm/h以上になると関係者に対してメールが発信される。「警報メールが発砲される際の雨量はどのようにも設定できるが、経験から30mm/h以上にした。それ以上の雨になると10分単位でどんどんメールが入ってくる。経験上、100mm/hを待っていたらその後の対策が遅れる。30mm/hくらいから警戒しておくのがちょうどいいと思った」(林氏)。実は過去に一度、雨量監視システムが故障していて、雨が降っても警報メールが来ない時があった。それからは手動で水を入れ、毎月動作テストも実施することにしている。

河川を監視するカメラ
雨量を図るセンサー。毎月動作テストを実施している

2017年からは監視カメラを設置し、スマートホンで24時間関係者全員がリアルタイムで観測できるようにした。監視カメラが入るより前は夜中でも従業員が現場に行き、状況を報告していたが、やはり豪雨の中夜中に現地に人を派遣するのは危険でもある。「今は警報メールを見たらすぐにスマホで確認すればいいので、非常に便利。社長も出張先でいつも確認しているようだ」(林氏)。

500年に1度の水害に備える

訓練で防水板を設置しているトヨックスの社員

そのほかにも、ハード面の対策も随所に凝らしている。専門家に依頼し、500年に1度の浸水レベルを想定して対策を実施。まずは商品を守るため、2012年に高さ70cmの防水板を倉庫前に設置した。2015年には配電盤を1階から2階へ移動したほか、移動できない配電盤は想定に合わせて全てかさ上げを施した。さらに2017年には工場の重要設備の保護のため、高さ1mの防水シートや同じく1mの簡易防水板などを設置。年に1度社員総出で設置訓練や排水ポンプの取り扱い訓練などを実施している。

林氏は、「2016年には、社長自らが陣頭に立った早朝訓練の緊急呼び出し訓練なども行った。これからも、できることをとことんやり続け、社員の命と生活を守りたい」と話している。

トヨックス常務取締役 製造本部長の林芳裕氏

(了)