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災害時の通信手段を選ぶ際に、どうしても「災害時にどのくらい確実につながるか?」を考えがちだ。東日本大震災から5年。訓練などを重ね、「本当にこの通信手段が必要なのか」と考え始めたBCP担当者も多いのではないだろうか。極論を言えば、「災害直後に、即座に連絡する必要性」がどのくらいあるのだろうか。情報共有に本当に重要なのは、「誰に、何を、いつ、何のために、どのように報告するか」だ。余計な情報は、経営判断を鈍らせてしまう可能性もある。通信手段とともに、災害時に、BCP(事業継続計画)にとって本当に必要な情報は何かを探った。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年11月25日号(Vol.52)掲載の記事を、Web記事として再掲したものです。(2016年9月5日)

東日本大震災直後、災害時の通信手段の増設を考え、トップの指示で全拠点と役員全員に衛星携帯電話を配備するなどの積極的な投資を行った企業も少なくないだろう。 

「3.11以降、クライアントから『とにかく災害時につながる通信手段を紹介して欲しい』という依頼が殺到した。しかし震災から5年が経ち、さまざまなコンサルティングを行うなかで、何のためにその通信が必要なのか、“本当に必要なのか”をクライアントと一緒に考える機会が増えた」と話すのは、東京海上日動リスクコンサルティングビジネスリスク本部主任研究員の廣本英隆氏。 

2013年3月に内閣府から発表された中央防災会議の「南海トラフ巨大地震の被害想定(第2次報告)」によると、固定電話は被災直後、全国で810万〜930万回線が不通。輻そうにより、固定電話・携帯電話とも90%規制となり、1割程度しか通話ができなくなる。さらに携帯電話は、基地局の非常用電源が発災後数時間以降に停止するため、不通エリアは数時間後から翌日にかけて最大となり、この状況から回復するためには1週間程度が見込まれるという。このような状況のなか、BCP担当者は少ないリソースを活用しつつ、経営者に情報を与え続けなければいけないのだ。

経営判断をサポートするための情報とは 
BCPを考えるうえで、何のために災害時の通信手段を確保しなければいけないのだろうか。それは“経営判断をサポートする情報を収集するため”だろう。そうだとすれば、災害の発生直後に経営判断に必要な情報が入手できることは、極めて少ない。自社の支店や工場、物流拠点の被害のほか、顧客やサプライチェーンの被災状況が判明するのは、早くとも数時間後から翌日以降だろう。 

廣本氏は「大事なのは、どのような情報にもとづいて、トップ(決定権者)に決断してもらうかということ」と話す。「『工場が被災しました』と経営トップに報告しても、その情報のみでトップが即座に代替生産を決断できるかというと、その可能性は低い。現在の受注量がどのくらいで、被害のない工場の状況はどうなっているのか、現在の生産余力はどれだけあるのか、海外なども含め、代替品はどのくらい備えられているのか。そういった情報を集めたうえで、経営の決断を仰がなければいけない。そのためには、おのずと必要な通信手段も変化する。衛星携帯電話での会話のみではなく、1枚でもファックスで送る方が経表営判断に効果的な場合が多い。トップの経営“判断”に対して、本当に何が必要か、どの情報を送れば決断できるのか、そこまでブレイクダウンして最適な通信手段を考えている企業は少ない」(廣本氏)。