2.北九州市の災害医療体制整備

これらを踏まえて、北九州市では2007年から、以下の4点をガイドラインとして災害医療体制整備を継続的に実施してきた。
① 地域防災計画と北九州市医師会の災害医療救護計画の一体化
②災害による負傷者だけでなく、避難所医療支援の展開
③ 動的対応が可能なように、市立病院救命救急センター内にインテリジェンス機能を構築
④災害対応のICS化

このうち、③のインテリジェンス機能構築と④のICS化は表裏一体の関係にある。日常体制は既に一定のインテリジェンス機能が構築されており、インテリジェンス機能とは「非日常体制」を稼働させるためのものである。言いかえれば、突発事態発生時に入ってくる情報から作戦を立てるとともに、指示を受ける関係部局が理解できるように「日常行っている活動」に翻訳を行う作業である。その翻訳作業を行う前提として、「対応を機能別にすること」と「災害に応じて異なる機能に常に対応できるサイジングができること」が必要と考えICS 化を試みたのである。

3. 訓練パッケージの開発
 - 体制の精度管理と運用習熟のために -

災害対応の最も大きな問題は、滅多に起きないことを「非日常体制」で行うことにある。日常体制とは、体制が継続的に運用されていることである。この場合、体制は継続運用が成される中で随時、不具合部分が修正され、全体最適化された構造となっている(図2 a)。つまり、継続的運用が体制の精度管理の役割を果たしているのだ。これに対し、非日常体制は継続的運用がないため、体制構築は机上に留まり、その不具合部分が見いだされ図2 日常的活動と非日常的活動における体制構築と継続的運用の関係ることも、ましてや修正されることもない(図2 b)。それは危機的状況の最中で、精度管理されていない体制を初めて使うことを意味する。非日常体制による活動の質を高めるためには、作成した体制について一定の精度管理を行い、あわせて体制を使用する側もその使い方に習熟しておく必要がある。それが訓練である。そこで我々は体制整備と並行して精度管理ができるような訓練パッケージを開発し、定期的に投入してきた(図2 c)。

訓練パッケージの目的と概要は以下のとおりである。
詳細な内容と結果については次稿の加藤論文に委ねる。

(1)体制の精度管理

実際の情報伝達は情報発信と受信の1対1関係ではなくネットワークを構成していることを踏まえて、ネットワークの各ノード(交点)を追跡して、どの部分がどのようなタイミングで情報伝達の停滞を来たしていくのかを検証できるようにした。

(2)インテリジェンス機能
実際の事態対応で最も重要なのは、対応項目の決定から派生する効率的戦力の投入(量と順番)の判断、投入方法の組織内調整である。これらを行えるようなシナリオを作成した上で、訓練では判断・調整が完了した時点を評価した。

(3)習熟
情報収集、伝達、判断、調整の達成率と達成に要した時間を測定し、過去と比較できるようにした。