2018/05/10
『事業継続の問題・課題はPDCAでやっつけろ!』
■業務が滞ると、どこにどんな影響が…?
会社の業務は、ある意味、その必然性と切迫性に基づいて重要度や優先度が決まります。BCMなどは、災害でも起こらない限り、普段はまず有用なものとはみなされません。したがって事業継続管理が形骸化しないように継続的に維持していくためには、その業務が必然性の高いものである「理由」を後任の担当者にきちんと伝えることが大切です。K子さんはこの点について上司に相談してみました。すると上司は次のようなアドバイスをくれたのです。
「以前読んだBCMの本に、興味深い方法が書いてあったのを覚えているよ。ビジネスインパクト分析と呼ぶらしい。災害が起こって業務が止まる。その状態が続くと、どこにどんな影響が出るのかを時間の経過に沿って推理する方法だ。これをBCM業務の引継ぎ説明に応用してみてはどうだろう?」。
なるほど!とK子さんも思いました。いくら文字で業務の重要性を説いても、人は必然性や切迫性がなければピンときません。待ったなしの日常業務が山ほど控えていればなおさらのことです。彼女は早速上司とともにホワイトボードを使って、BCM各業務のビジネスインパクト分析を試みました。
進行役は上司です。「まずはBCP文書の改訂・更新業務について。もしタイムリーな改訂を怠ったらどうなる? 怠った期間を1週間、1カ月、3か月として考えてみよう」。
K子さんは答えます。「災害はいつ起こるか分かりません。たとえわずかな期間であっても、その間に大地震でも起こって、BCP文書が最新の内容になっていないために意思決定や指揮命令に間違いが生じたら、BCM管理者の責任が問われかねません。やはり改訂依頼があれば、できるだけ早めに対処するのが正しいと思います」。
■とりあえずこれで様子を見ましょう
このような流れで、BCMの業務ひとつひとつについて、各業務がどの程度の緊急性や切迫性のあるものなのか、その"理由"をホワイトボードに書き出していきました。最後に記号や番号で優先順位付けされたBCM業務の一覧に備考欄を設け、そこに各々の"理由"を追加して完成です。
こうして、K子さんが最も気になっていた「後任者にBCM業務の重要性がうまく伝わるか、きちんと引き継げるか」という心配はひとまず払しょくされました。また、中身がややこしい業務については、少し時間をかけて業務マニュアルを整備することも彼女は忘れませんでした。
あとは後任者が決定したら、この業務一覧表とマニュアルをもとに実際に引継ぎを実行するのみです。このやり方が万全かどうかはK子さんにも上司にも分かりません。実際に実行してみて何か問題があれば、後任者が中心となって、少しずつ引継ぎ手順と段取りに工夫を加えていくつもりです。
今回の内容は、明確なPDCAの枠組みに沿ったものではありませんでしたが、後任者がその後、BCM業務を形骸化させずにうまく維持しているかどうかを評価(=Check)する手順までを組み込めば、これもまたPDCAの一つとみなすことができます。それと、今回は「ビジネスインパクト分析」の応用についても触れました。この分析方法はBCPの策定のみならず、日常業務のプライオリティを意識する際にも有用なツールです。みなさんの会社でも、機会を見つけていろいろと試してみてください。
(了)
『事業継続の問題・課題はPDCAでやっつけろ!』の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方