米国では毎年、水難救助活動中に平均7人殉職している (出典:Youtube/Stockton Fire Dive Rescue Training

総務省消防庁の2017年の救急・救助の現況によると、2016年に全国で出動した水難事故件数は5184件、そのうち、要救助者の搬送人員は2341人となっている。

■平成29年版「救急・救助の現況」(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h29/12/291219_houdou_2.pdf

今年も水難事故シーズンを迎えるが、多くの消防本部や消防局で、水難救助活動への十分な装備習熟機会や水中からの救出救助訓練などの各種水難活動訓練が足りていない状況ではないかというご意見をいただいた。

また、潜水スーツが個人貸与でないためサイズが合わず、訓練後や現場活動後に胸骨や肺の痛みを感じることもあり、いつか誰かが事故に遭うのではないかという不安を抱く声も伺った。


Stockton Fire Dive Rescue Training (出典:Youtube)

調べてみたところ、毎年、アメリカでは水難救助活動中に平均7人ほど殉職している。その原因のほとんどは下記の3つ。

・現場に応じた水難活動計画を守らなかった。
・水中環境を予想していなかった。
・水難救助訓練と専門知識の欠如


また、水中環境による活動中の潜水隊員の健康リスクを、現場指揮者が先読みしていなかったことも原因に挙げられている。

環境要因による潜水隊員の健康リスク

・水温が極端に低い場合
低体温症、凍傷、潜水・救助機器等の誤作動、隊員の思考・判断能力や正常な生体活動能力の低下。

・水温が極端に高い場合
高体温症、水中環境や隊員の身体に合わない潜水スーツの選択(厚さやサイズ)、極度の疲労、脱水症状。


両方に共通する潜水隊員の活動中の殉職事故の原因として、潜水隊員の健康リスクが高い環境下における「生存が見込まれない要救助者」に対する長時間(90分以上)の捜索や潜水活動が指摘されている。

さらに気象環境、水中環境下などでの潜水隊員へのリスクとして、以下のリスクが挙げられている。

・気象環境リスク
台風、強い雨や風、雪、霧等の悪天候下の活動時、急速な体温低下が起こる。

潜水活動中、隊員の体熱は空気中の25倍の勢いで奪われ、体温は急激に下がり始める。このため、体は皮膚の近くの血の流れを少なくして、体の奥の方に熱をためようとする。たとえば、摂氏30度の水温でも、人間の体温と比べれば7℃も低いため、潜水活動中は継続して熱が奪われてしまう。

水温が摂氏25度以上のときには体を動かした方が体温の低下は少ないが、摂氏24度以下になると身体を動かさない方が体温の低下は維持できると言われている


・水中生物リスク
オコゼ、クラゲ(カツオノエボシやハブクラゲ) 、ウツボ等の魚類を始め、ウニや水生植物、海藻、細菌などによる潜水隊員への活動障害

・水質リスク
ヘドロ、各種汚染物質、車からのガソリン漏洩などの危険物質などによる健康被害

・潮流や波、流れのコンディションリスク
カレント、大波、急激な流れ、満ち波・引き波、落ち込み等
流れの強い河川においては、水深1m以内の流速が時速10kmから20kmに達することもある

・水底廃棄物リスク
海底に破棄されたワイヤーやロープ、釣り針の付いた釣り糸(複数の場合もある)、錆びた鉄片や内容物不明のドラム缶、ガラス瓶やガラスの破片等

・精神的リスク
視界不良による活動不安、深夜の水中飛び込み自殺や殺人現場、惨殺遺体、幼児等の遺体、家族の声、同僚隊員の殉職事故など




FDNY - Rescue 2 Has An Afternoon Of Diver Training - The Bravest (出典:Youtube)

これらのリスク対応のほとんどは適切な装備の選択と十分な訓練、そして現場到着時のサイズアップによって、軽減し、活動を安全にすることが出来る。

水難事故現場におけるサイズアップリストは下記の通り。

・現場へのアクセスと潜水活動開始箇所の選択
・落水箇所の特定と活動箇所の範囲判断
・事故内容別の使用資機材の選択

例:車両の吊り上げ用クレーン、ワイヤー型バスケットストレッチャー、ウィンチ、はしご車(マイナス倒伏・先端屈折)、予備タンク、複数のナイフや釣り針切断用ニッパーやペンチなど

・潜水隊員の選択と陸上ロジの役割、後着隊の活動指示
・気象等自然環境条件の変化
・視界不良、水位や流れ、水温(摂氏21度以下)など水中環境の変化
・物理的な活動環境の変化
・日照の変化
・水難事故の規模(満員の家族連れを載せた大型バスの海中転落等複数、かつ、多様な救助者対応)
・水難事故の要因(自殺、他殺、事故)
・救助活動か収容活動かの選択
・要救助者の特定や車両の車検証などの情報収集


水深2m以上の河川における要救助者捜索の場合、川底に近い水温は冷たく、水の密度も高く、また、川面付近は水温が高く密度が低いため、子供などの場合、水深幅の中央に浮いていることもある。

さらに川面の流れが速くても、水底に沈んだ大人の要救助者は水深の約1.5倍ほどしか、流されていないこともあったと報告されている。

港湾の岸壁などでは、荷役作業後に落下するか捨てられたワイヤーなどが無数に捨てられており、そのワイヤーにサビキ仕掛けなどの複数の釣り針の残った釣り糸が絡まっていることが多い。

岸壁近くの視界不良の活動環境下において、潜水隊員のウェットスーツや縛帯などに釣り針が刺さり、パニックになって、極度のエア消費をして溺れそうになった事故もある。バディー隊員との視界不良下での水中コミュニケーションやナイフ、ペンチなどの装備は命に関わることもあるため、重要である。

視界不良になる原因としては、潜水隊員が潜行時に足ひれをバタつかせることでかい体のヘドロが巻き上がり、何も見えなくなってしまうことが多いため、オーバーウェイトを避け、適性浮力による中性浮力の練習が必要である。

車両から車検証や要救助者の持ち物などをリカバリーした場合、岸壁上の陸上隊員が大物釣り用のネット目の細かい玉網(タモ)付きで、伸縮できる5m以上でカーボンファイバー製などを用いて、水中に再び落下しないように工夫している。

水難救助訓練と言えば、日本では、5mプールの水底に5kgのウェイトとマスク&スノーケル、足ひれを投げ込んでおいて、隊員に素潜りをさせてプールの底まで素潜りで潜らせ、すべて装着して水面に上がり、スノーケルクリアをさせたり、ウェイトを付けて素潜りで5mプールの底に潜り座席結びを作って浮上させたりするというような、未だに苦しみと苦痛だけを与えるような、まったく意味の無い危険な訓練を行っているところも在ると聞く。滅多に行わない水難救助訓練だからこそ、もっと、合理的で現場に即した水難救助訓練を行う必要があると思う。

今回は、一般的な水難活動全般のにおけるリスクの洗い出しとサイズアップについて書かせていただいたが、機会を見て、各種水難事故別(河川、海、池、沼、ダムにおける水難事故、溢水後の行方不明者捜索、アンダーパスでの車両からの救出手順)などもご紹介したいと思う。

(了)


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