第15回「都市防災と集団災害医療フォーラム」パネルディスカッションの様子(21日、千代田飯田町ビル)

一般社団法人日本医療資源開発促進機構(MRD)は21日、第15回「都市防災と集団災害医療フォーラム」を東京都千代田区の大和ハウス工業東京本社で開催。「災害時の共助と企業の役割」と題して病院・自治体・民間企業の各組織で災害管理部門に携わるメンバーが集まって事例発表やパネルディスカッションが行われ、地域社会を巻き込む取り組みについて議論を深めた。

当日基調講演では3人が講演した。金融分野からは、日本政策投資銀行のサステナビリティ企画部の蛭間芳樹氏が講演。企業が取り組む災害時の事業継続力を評価し金利優遇する同社独自の「BCM格付け」制度について紹介。また格付け制度に参画する企業の実務メンバーが定期的に集まって事例発表や対話形式のワークショップで交流を深める「クラブ」の取り組みも紹介。普段はビジネスでは競合する企業同士が「困ったときはお互い様」と緊急時に共助できる関係を構築している取り組みを評価した。

また医療分野からは、独立行政法人・労働者健康安全機構理事長の有賀徹氏、帝京大学医学部附属病院病院長の坂本哲也氏が講演した。有賀徹氏は、災害時の医療において、行政・自治体・自衛隊・医師会・病院などさまざまな災害医療チームがつくられていながら、互いが個別に活動している現状を指摘。同じ目的を共有する災害医療チームとして円滑な連携を深めようと、2017年9月に設立した「一般社団法人HealthcareBCPコンソーシアム(HBC)」の取り組みを紹介した。

さらにでHBC理事も務める帝京大学医学部附属病院病院長・坂本哲也氏は、東京都福祉保健局が2012年に公表した「大規模地震発生時における災害拠点病院の事業継続計画(BCP)ガイドライン」に基づき、東京都の災害拠点病院の一つに指定されている帝京大学医学部附属病院が実際にBCP策定に取り組んだ事例を紹介。首都直下型地震のような大規模地震でも、院内職員や院外の行政・企業などと連携して地域の災害医療を提供する体制について説明した。

公を担う日本企業の強み


パネルディスカッションでは、神奈川県大和市・大木哲市長、綜合警備保障(株)総合管理防災室長・小寺徳雄氏、ヤマト運輸(株)安全CSR推進部長・小坂正人氏、大和ハウス工業(株)取締役専務執行役員・堀福次郎氏、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大槻啓子氏がパネリストとして登壇。コーディネーターの戸田中央医科グループ医療法人横浜柏堤会災害対策特別顧問・野口英一氏のもと「災害時の共助と企業の役割」と題して意見交換をおこなった。

この中でヤマト運輸・小坂氏が、東日本大震災の際、被災していた社員が救援物資を集積地から避難所に配送する作業をボランティアで実施していたのをきっかけに、5日後には本社から全国社員を被災地に送り、ボランティア活動を拡大支援した事例を紹介した。コーディネーターの野口氏が「災害時の共助は結局企業が費用を持ち出しで行うことで、経営上賛否が分かれる」と問題提起したのに対し、小坂氏は「自主的にボランティアを始めた社員は、自ら被災し、避難所生活をしていた。自ら被災者として、地域に住まうコミュニティーの一員として、何か貢献したいという思いが先立ったのだと思う」と取り組みの発端を説明した。

さらにヤマト運輸ではこのボランティア活動をきかっけに、4月からサービスの有償化を依頼できるよう被災地の自治体に掛け合い、了承を得た。その後岩手県では同年8月末まで、宮城県では翌2012年1月15日まで請け負うことになったと説明。「有償サービスに切り替えることで、責任をもって水平展開と継続ができるし、地元の事業者に引き渡すこともできれば雇用創出にもなり、喜ばれる」と公私の境界をまたぐ独自の企業のあり方を提示した。

綜合警備保障・小寺氏も東日本大震災直後からの支援活動を振り返り、「被災地には我々以外手を差し伸べられる企業がいないという地域も多く、ある程度の持ち出しは覚悟しなければいけない。契約上にはない業務でも、顧客に喜んでもらえることはできる範囲でやっていきたい」とした。大和ハウス工業・堀氏も、東日本大震災で19日から応急仮設住宅建設着手し、2012年6月までに1万1051棟を迅速に竣工した実績を報告した。

 有賀氏は、「官民と公私は固定的ではなく、民間企業でも公の視点で事業サービスに取り組むことができ、結果的に盤石な経営体制を構築できる」と分析した。大槻氏も「金融分野でもヨーロッパの機関投資家を中心に近年、環境配慮(Environment)、社会貢献(Social)、企業統治(Governance)の意識が高い企業を評価し、優先的に投資する「ESG投資」の機運が高まっている。中長期的視点に立てば、災害時の共助や社会貢献の視点は経営面でも今後大きな影響を与えていく」との展望を示した。

(了)

リスク対策.com: 峰田 慎二