消防士も熱中症予防を!(Photo AC)

これからのホットな季節、燃え盛る火災現場で輻射(ふくしゃ)熱にあおられながら防御活動を行う消防士たち。皆さんは夏冬兼用の防火衣の上下と空気呼吸器、縛帯、小綱、カラビナ、ライトなどの個人装備を身につけ、長時間の現場活動に従事しなければならない。

消防士が熱中症にかかりやすい原因として、筋肉量が多いのはもちろん、個人装備の改善工夫、資機材の軽量化、そして、現場におけるリハブ(体力調整)システムや基準が整っていないからという現場からの指摘も多い。

夏期、スポーツ界では、暖候期予報を読み、前年度の摂氏25度以上の気温が続く週に入った時期を目安とし、選手達の体を暑さに慣れさせるために徐々に耐暑時間を増やし、練習メニューを調整しながら、2週間程度の暑気順化トレーニングを行っていると聞く。

■夏の天候の見通し 6~8 月:暖候期予報 (気象庁 2018年2月23日発表)
https://www.jma.go.jp/jp/longfcst/pdf/pdf6/001.pdf

最近では、天気予報などで暑さ指数(WBGT)も公表されているが、アプリを活用すると日々の予測が簡単に見ることができる。

■熱中症予防情報サイト(環境省:スマートホン版)
http://www.wbgt.env.go.jp/sp/

■熱中症予防情報サイト(環境省:PC版)
http://www.wbgt.env.go.jp

トレーニングのオフ日における暑気順化生活も大切で、体調をベストな状態に持って行くための努力を行うこともポイントになる。

環境省から「熱中症予防情報サイト 熱中症環境保健マニュアル」の改訂版が出たが多岐にわたり非常に読みやすく分かりやすい。

■熱中症環境保健マニュアル 2018(環境省)
http://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf

アメリカの消防士たちはどのようにして、熱中症対策を行っているかを調べたところ、まず驚いたのは、個人装備の軽量化とスポーツ化だ。より楽で軽く、消防士に負担のない装備を消防士たちとメーカーが一緒になって作っている。

たとえば、下記は軽量化された防火衣(商品名:アスレチックス)は、従来の3分の一以下の軽さで、あらゆる災害における現場活動による体力負担を緩和することができ、十分な耐火性能と関節をフルに可動できるデザインを実現している。



Globe ATHLETIX™ Own Words (出典:Youtube)

防火ブーツ(商品名:スプラフレックス)についても、従来の3分の1ほどの重さで、消防作業に必要なスペックは従来通り。さらに足関節が動かしやすいデザインになっている。

Globe SUPRAFLEX™ - Flexible Thinking in Boot Design (出典:Youtube)

これらの個人装備の軽量化は、熱中症対策や事故予防に大きく役立つことは目に見えてわかるため、可能な限り、日本でも採用されることが望ましい。発がん対策も兼ねて、防火衣上下の2着貸与が実現される場合、1着はこれらの新しい防火衣を導入する価値はあると思う。

下記は、一見ユニークで、本当に使えるのかな?と思わせるような冷風機。要は冷気を吸って肺を冷やし、また、体表面積の多い頭部、頸動脈の頸部などの動脈がある部分、背中一面、胸部、股間などに冷気のシャワーを浴びる等、特に体幹部を内と外から冷やすというコンセプトだ。日本で市販されている業務用冷風機を上手く工夫すれば、比較的安く熱中症対策ができるのかもしれない。


Setting up and operating the Polar Breeze unit (出典:Youtube)

アメリカでは、全米防火協会(NFPA)が規定するNFPA1584に従って、下記の2つのガイドラインを活動上の現場におけるリハブ(体力調整:休憩、水分・栄養補給、酸素補給、必要次第でメディカルチェック)の目安としている。

下記は現場における熱中症予防のガイドラインだが、冬期においては低体温症予防のガイドラインもある。

[ガイドライン1(10分間の体力調整)]
① 火災現場で空気呼吸器を活用した防御活動を行う隊員は、少なくとも10分間に1回は、水分補給する。
② 空気呼吸器を使った活動を30分、空気ボンベを1本使用した場合、または空気呼吸器を着用せずに20分間激しい作業をした後には、水分補給(目安として最低200ml)する。
③ 現場管理者は、防御をしていない隊員も含め、全ての現場活動従事者に水分補給をさせる。

[ガイドライン2(20分間の体力調整)]
全ての活動隊員は次のいずれかの活動後に最低20分間休む。
①1人の隊員が、同じ現場で空気呼吸器のボンベ(約30分間の使用量)を2本使い切って活動した場合。
②1人の隊員が、同じ現場で空気呼吸器のボンベ(約45〜60分間の使用量)を1本使い切って活動した場合。
④化学防護服等を着用した現場活動を行った場合。
⑤空気呼吸器を着用せずに40分間の激しい作業を行った場合。

このように基本的な活動に応じた休憩時間の目安は消防士の筋肉量、装備重量、個人装備など、活動上の心身に対する負荷を考えて計算されている。

また、この休憩時間は下記の内容によっても変わることがある。

・災害の種類と被災規模
・防御対象物(化学工場等特殊施設、木造密集地域等)
・特殊な危険要因(有毒ガス、酸素欠乏、爆発等)
・大規模火災、林野火災等に長期活動が予想されるときの、総合的な火災防御時間時間
・気象条件や現場の物理的な環境要素


大規模災害時、死傷者が多く出た場合のリハブユニットは、メンタルストレスの対応や現場内部の状況報告を行うなど、ヒアリングステーションも設営される。

下記のビデオに簡単なリハブユニットの説明がある。

Rehab and You: NFPA 1584(出典:Youtube)

次回は、さらに詳しくリハブユニットを紹介したい。

以下、私が個人的に熱中症対策用に作っているドリンクレシピ。

●500mlのペットボトル用
炭酸水 : 500ml
天然塩: 2g
天然の糖: 10g (ハチミツ大さじ1杯でもOK)
レモン汁:好みに応じて10滴ほど

●作り置き用
炭酸水 : 1000ml
100%グレープフルーツジュース:100ml
はちみつ:100g
重曹:5g
ビタミンC:1000ml

・重曹とグレープフルーツジュースに含まれるクエン酸やノビレチンは、
体内をアルカリ性に保ち、乳酸の産生を抑えて疲労を防ぐ効果がある。
・ハチミツには、良質のアミノ酸・電解質・ブドウ糖・果糖・ビタミンB群が多く含まれているため、即効性のエネルギーに効果的。
・ビタミンCは、骨や皮膚・アキレス腱などの結合組織の合成に関与、免疫力の強化、ストレスや疲労回復にも効果的。


それでは、また。

■熱中症環境保健マニュアル 2018(環境省)
http://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
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