「アスベスト問題」というと、すでに過去のできごとと捉えている読者も多いのではないだろうか。しかし、アスベストは建材として、現在でも私たちの住宅やオフィス、工場などの至る所で使用されている。スリーエムジャパン株式会社安全衛生製品事業部学術部主任の片岡克己氏は「東日本大震災でも発災後、倒壊した家屋やビルから異常な数値のアスベストが発生した。企業は従業員の命を守るため、十分な機能をもったマスクの備蓄が必要」と警鐘を鳴らす。

アスベスト(石綿)とは、自然界に存在する非常に微細な鉱物繊維。耐熱性や絶縁性、保温性に優れているため断熱材や絶縁材に古くから用いられており、さらには安価なため過去には「奇跡の鉱物」と呼ばれ、世界中の建築現場で使用されていた。しかし、空気中のアスベストの吸入によって肺がん、中皮腫を起こすことが世界的に問題となり、日本でも1975年に吹き付けアスベストの使用を禁止したほか、労働安全衛生法や大気汚染防止法などにより、作業環境での濃度基準や工場、事業所などの排出基準を定めるなど規制を強化してきた。それでも2005年、兵庫県尼崎市にある大手建材メーカーの工場で、10年間で少なくとも51人がアスベストに起因する病気で死亡したことが判明。さらに周辺住民も5人が犠牲になったことが分かり、日本中に衝撃を与えた。

アスベストの大きさは花粉の1500分の1
「アスベストの大きさは最も細かい繊維で花粉の約1500分の1。通常のマスク(サージカルマスク、花粉用マスク)では全く太刀打ちできない。少なくとも粉じん対策マスクを選ばないと、防護することは難しい」と話すのは、NPO法人東京労働安全センター労働衛生コンサルタントの外山尚紀氏。 

アスベストの特徴は、その形態そのものががんを引き起こすこと。非常に微細な鉱物繊維が肺の細胞に突き刺さり、肺がんや中皮腫(悪性腫瘍)の原因となるという。 

1995年に発生した阪神・淡路大震災では、復旧にあたった作業員が、大気中にまん延する高濃度のアスベストに気付かず多量に吸引したケースもあった。東日本大震災でも、がれき処理や復旧作業時におけるアスベスト問題が数多く報道されている。 

外山氏は「日本の住宅や工場、オフィスなどの建築物では、吹付け材以外でも、煙突や配管保温材、スレート板などの成形板などアスベストが至る所で使用されている。最近では、今年9月に発生した関東・東北豪雨による水害で破壊された建物にもアスベスト含有建材が使用されており、ボランティアなど復旧作業にあたる人には防じんマスクが必須だ」と話す。

アスベスト問題を忘れるな
片岡氏は「さまざまな企業で震災時にまきおこる粉じんや、火山灰をマスクで防御できるかについてはよく聞かれるが、アスベスト問題については触れられたことがない。アスベスト問題が私たちの身の回りにあることを忘れないでほしい」と話す。 

首都直下地震などの災害が発生すれば、従業員は粉じんやアスベストが舞い上がるがれきのなかを徒歩で帰宅しなければならない可能性が高い。社内に留まっている場合でも、天井などが落下するなどして事業所の復旧作業に当たれば、同様の危険性がある。その場合に高性能のマスクを備蓄しておくことは、企業の安全配慮義務として非常に重要なポイントになるだろう。 

同社が企業の備蓄に推奨するのは、防じんマスクDS2やN95と呼ばれる高性能防護マスク。もともと、採掘現場や溶接作業時に発生する粉じんから労働者の安全を確保するために作られたもので、N95とは米国労働安全衛生研究所(NIOSH)で定められた規格の1つ。N・R・Pと3段階でそれぞれ95、99、100の区分に分けらており、N95はその中で最低クラスの規格だ。とはいえ、N95はNIOSHの基準では、0.3μmの微粒子を95%以上阻止することを求めている。例えばウイルス感染などの原因になるヒトの飛沫は5μmから180μmであると言えば、その性能の高さが分かるだろう。米国では、最低限でもこの規格をクリアしないものは粒子状物質のばく露から着用者を守れないと考えられているのだ。加えて、それ以上の効果が期待できる超高性能マスクは2000円以上する高価なものになってしまうが、N95であれば1つあたり100円から300円と比較的安価。サイズも小さいため保管スペースも縮小できる。 

「一度災害が発生すれば物資の供給は遅れ、マスクも手に入りにくくなる。N95であればパンデミックなどの感染症対策はもちろん、地震などの災害時の粉じんやアスベスト対策としても有効だ。当社では、災害時用に従業員1人当たり2週間分程度の備蓄を推奨している」(片岡氏)。

知識とスキルと装備
同社では、災害時における「知識とスキルと装備」を提唱している。正しい知識があれば、災害から逃げることや危険を察知することができる。そしてスキルとは、「マスクを正しく装着できるか」だ。 

片岡氏は「正しく装着しなければ、N95を付ける意味はない」と訴える。N95を着用したとしても、完全に微粒子をさえぎることができるわけではない。加えて、顔とマスクの間に少しでも隙間があれば、効果は半減する。そのため、欧米ではマスクのフィットテストを企業に義務化し、マスクを装着する従業員に対して毎年マスクの正しい装着方法に関する講習会を義務付けている会社も多い。今後、せっかく企業がマスクを備蓄していても、正しい装着方法や密着性の確認までできていなければ、安全配慮義務違反になる可能性もあるという。 

「スリーエムは、単にマスクを販売するだけでなく、正しい装着法を記したポスターなどのユーザーサポートツールを作成するほか、確実にマスクが密着しているか確認するフィットテストや、装着訓練の指導者育成なども実施している。正しく装着しなければ、いざというときに従業員の命を守ることができないからだ」と、片岡氏は正しいマスク装着法の重要性を指摘している。

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