専門技能を持つボランティア

チェーンソーの回転音が響く丹波市上鴨阪にある宗福寺。集中豪雨で木々が密集する裏山が崩れ、大量の土砂が壁を突き破り本堂に流入した。隣接する住居の2階には土砂に運ばれた木が突き刺さった。400年続く宗福約寺の17代目住職は「木があと1m先まで侵入していたら父の命が危なかった」と話す。

本堂に流入した土砂のかき出しや倒木の危険性のある木を伐採していたのは、一般社団法人熊野レストレーション(熊レス)を中心としたメンバーだ。熊レスは、三重県南端の東紀州地域を中心に活動する森林里山保全を主とした一般社団法人。代表の端無徹也氏は「チェーンソーや軽重機を扱える専門技術者のグループ」と説明する。

熊レスが丹波市に入ったのは8月20日だった。Facebookで発信された丹波の被害情報を見て駆けつけた。「チェーンソーを持った『よそ者』ですから、はじめは警戒されました。しかし、伐木を進めていると住民と交流が生まれ、ボランティアを求める声が集まってきた」と端無氏は話す。チューンソーやショベルカーの操作に長けた熊レスは、丹波市や地元の建設業組合と協力して道路の復旧作業にも従事した。住民からのニーズをまとめ、ボランティアセンターに伝える“橋渡し役”も務めるようになった。

端無氏が初めてボランティアを経験したのも阪神・淡路大震災だった。地震が発生した翌日に神戸市東灘区に入り、避難所となった小学校で炊き出しやトイレ掃除などを手伝ったという。それ以来、ボランティア活動を続けている。2004年には台風21号により大きな被害を受けた三重県でボランティアセンターの運営を担った。チェーンソーを持ち込んだのはこの時からだ。

各地から集まったボランティアと熊レスが協力し、伐木や周辺に倒れた木々の運搬、床下の泥出し作業を着々と進める。「拭き残しは悪臭やカビの原因となり、住民と建物にダメージを与える。単純に見える床下の泥出しにも気をつける点は多い」と語る。経験に裏打ちされた高い技術を地域に持ち込んだ端無氏のもとに、また1つ住民からボランティアの相談が持ちかけられていた。