マンションのトイレ継続計画

各家庭での備蓄のほかに、自主防災会ではマンション全体で使用する防災器材(避難誘導、救助・救護用具、AED、発電・照明、共同炊事用具など)のほか、マンション内の臨時避難所に避難した居住者(傷病者、要援護者、帰宅困難世帯の幼児、津波浸水被害を受けた居住者など)向けの食料、飲料水、簡易トイレ、寝具なども備蓄している。これほどまでにマンション全体で備蓄していながら、さらに家庭内の備蓄を呼びかけるのは、例えば津波浸水被害を受けた場合、漂着がれきを撤去し、消毒、清掃を済ませた後でなければ共同炊事体制がとれないためだ。共同炊事が始まったら、食材は各家庭の備蓄食料から持ち寄ることにしている。

さらに徹底しているのは、備蓄トイレに対する考え方だ。よこすか海辺ニュータウン連合自治会会長でもあり、ソフィアステイシアMLCP※策定委員会委員長の安部俊一氏は「1日や2日は食べなくても水さえあれば餓死することはない。しかしトイレを我慢することは場合によっては命取りになる」と話す。

ソフィアステイシアでは、震度5弱以上の地震が発生した場合、排水系統の点検が全て完了するまではトイレ、台所、風呂などの生活排水の使用を全面禁止にしている。これは仮に一時的に排水が利用できたとしても、地震により配管がずれたりしていた場合には下層階の住居に水漏れなどの被害をもたらす恐れがあるからだ。また、同マンションは津波警戒区域内にあるため、災害用トイレは津波災害リスクが去るまで設置しないとしている。

「大地震や津波が発生した場合、最初の3日間は家庭内で備蓄してもらった簡易トイレなどでしのいでもらう。津波被害のリスクが去った後に、マンションで備蓄したトイレを設置する。現在、8000回〜1万回対応の大型トイレを4基、マンホール直結タイプを10基整備済みだ。これで住民1000人、1日あたり8000回のトイレ需要に対し、10日間から2週間対応することができる」と安部氏は胸を張る。トイレットペーパーは各家庭で備蓄し、災害用トイレを使用するたびに各自持参するものとするほか、夜間はトイレ警備班が災害用トイレを巡回警備、部外者のトイレ利用を原則禁止にするなど、MLCPのなかでトイレ対策を最重要項目にとりあげ、徹底した対策を施している。

ソフィアステイシアの取り組みは災害対策には理想的と言えるが、通常のマンションではこのように住民の防災意識を上げるのは難しい。なぜこれほどまでに質の高い防災計画を策定することができたのだろうか。そこには入居当初から12年かけて築き上げた、住民同士のミュニティ活動があった。

※MLCP…Mansion Life Continuity Plan=マンション生活継続計画

災害時用備蓄トイレを組み立てる自主防災会の皆さん