筒井:一方で、携帯やスマートフォンなど、個人が使う端末はコミュニティとはある意味逆行し、個別分散化を加速させてしまう危惧もあります。

森下:放置しておけばそのようなことも考えられます。放っておくのではなく、積極的にコミュニティ活動のようなネットワークを作らなければいけません。その意味では、連絡網などによる安否確認を行うなど、自治会のような組織が果たす役割は大きいと思います。

筒井:通信と放送の利点については、どのようにお考えでしょうか。

森下:放送の強みは、一斉に情報発信ができることです。独居老人や寝たきりの人でも、テレビかラジオは持っていますね。なければ、自治体がラジオを配る、貸し出すという方法もあります。すると、電源さえ入っていれば自動的に緊急放送の起動がかかり、「大地震が発生した」という第一報が入ります。

でもその後の、双方向のコミュニケーションができません。安否確認をするとなると通信が必要になります。こうした放送と通信の利点を融合した上で、日常でも災害時でも使えるシステムを統一しておくことが重要だと思います。

こうしたシステムがあれば、災害弱者の情報が把握しやすくなり、安否確認や連絡も取りやすくなるはずです。日常的に成り立っている情報の仕組みを災害時にも使えるようにしないと、防災にだけ投資するのは、経済的に難しいと思います。

筒井:田中専務は、平常時から行政と民間が連携したシステムを組むことによって、緊急初動時の対応・対策が拡充して良くなり、生存率も高まると話されていますね。その辺をもう少し詳しくお話しいただきたいと思います。

田中:日本の防災システムは、当初は公助が中心のものでした。つまり地元の消防署、市役所、県庁、国の消防庁、内閣府、総理大臣、危機管理センターといった所に被災地の情報を集め、現地に救援を差し向けるための情報収集手段で、大局的な戦略を作るためのシステムだったと思うのです。ところが、東日本大震災を体験し、市役所の防災センターそのものが津波に流されてしまうなど、大規模な災害が発生した時の公助の限界を知りました。今までの「災害対策基本法」の枠組みの中では対応しきれないので、「皆さん、自分の命を自分で守ることを考えてください」というのが、地区防災計画の精神です。

そうすると、防災のシステムのあり方も変わって然るべきだと思うのです。地区住民や事業者の方が共に助け合うための情報をどう収集し伝達し合うかという、度違う視点で情報システムを180考えなければなりません。

2つ目は、地区ですから、小さな単位のコミュニティがたくさんあるわけです。そこの人々が、地域の河川や場所の固有名詞を入れて情報を発信する。しかしこれは、県庁や国で扱えるような情報ではありません。したがって、こうした情報を共有できるようにするには、全く新しい概念で、今の防災システムを考え直さないといけないし、今まで作ってきている行政公助型の防災シフトとの連携も図らなければいけません。

現在進められている地区防災計画でも、危険情報を知らせる手段にトランシーバーやトランジスタメガホンなど、もう数十年以上前から使っている機器を取り入れているところがあります。携帯電話やネットワークが高度化されている中で、これでいいのかという疑問があります。トランジスタメガホンでは、戸を閉めていると音が聞き取れない、反射して何を言っているか分からないなど、非常に基本的、初歩的な問題があります。

こうした問題を解決する実現可能な新しいツールとして、携帯電話会社が展開しているデジタルフォトフレームがあります。タブレット、あるいはもう少し大き目のモニターに被災状況など色々な情報を流していくというものです。平時には、スーパーの情報、市役所の広報、地区の回覧板的な情報なども流すことができます。

地区防災計画活動の中でも、先進的な地区では、スマートフォンを活用し、GPSと地図情報によって老人の方や中学生・小学生が一体となって避難訓練をしている事例もあります。

自分で自分の地区を救える、共助できることを実証できるような情報システムを取り入れたモデル防災地区が必要です。高度なICTを使い込み、それが日常でも大規模災害時でも使える、そういうものを日本で少しずつでも作っていく必要があると思います。

また地区防災計画を作る時にも、紙ベースで作る場合もありますが、今は高齢者の皆さんも電子的に計画書を作れる方がたくさんいらっしゃるわけですから、ひな形から、自分たちに合うものを選択できるプラットホームを作っていけばいいと思います。作成した計画を市の防災会議に出し、そこで、首長や防災担当者が判断して電子化していくイメージです。