危機発生時の広報戦略【記者会見 直前対策】

人は、見た目が9割

「記者会見の内容はもちろん重要ですが、意外と足をすくわれやすいのが見た目です」


こう語るのは企業の広報支援を手掛けるメディアブリッジコンサルティング㈱取締役の井上一樹氏だ。


論拠とするのはメラビアンの法則。アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが1971年に提唱した法則で、人の行動が他人にどのような影響を及ぼすかを調べた結果、話の内容などの言語情報が7%、口調や話の早さなどの聴覚情報38%、見た目などの視覚情報が55%の割合であることを示したとされる。

つまり、話す内容より、声のトーンも含め、いわゆる「外見」が9割を占めるというのだ。入社試験の面接などでも、「服装や話し方には特に注意が必要」というようにこの法則が使われることがある。
ただ、実際にメラビアンが行ったのは「視覚」「聴覚」「言語」で矛盾した情報が与えられたときに、人はどれを優先して受け止め、感情や態度を判断するのかという実験であったとの指摘もある。が、井上氏は、いずれにしても「せっかく、しっかりした回答ができても、服装などの些細なことですべてを台無しにすることにもなりかねないことは頭に入れておいた方がいい」と語る。

例えば服装。常識の範囲が基本だが、特にネクタイの色などは、気にする人も多いので注意が必要。また、腕時計やネックレスなどのアクセサリーも高価なものは避けるべき。見落としがちなのが、記者会見の会場。ホテルなどを使うと、会見席が一段高くなっていることがあるが、これは記者を見下ろすようになってしまうのでNG。このほか、歩き方や貧乏ゆすり、特有の癖などがあれば、あらかじめ本人に気をつけるように注意すべきだとする。

■想定問題集の作り方

日常的に広報体制を整備し、危機管理マニュアルなどをつくることが危機管理広報の基本だが、井上氏は、いざ危機が発生し記者会見をすると決まったら、想定問答集をつくり模擬訓練を行うなど直前準備をすることを薦める。
理想的には、模擬会場をつくり、会見に応じるトップ役、司会者役(広報担当者)、記者役などを決め、会見を行ってみる。この際、先ほどの身だしなみや癖はもちろんだが、記者役の質問や、その回答方法が重要になる。

想定問答集の作り方は事象によって異なるようだが、井上氏は、記者会見で必ず聞かれるとされる5項目(①謝罪、②事実の詳細、③原因、④再発防止策、⑤責任・処分)をベースに、5W+1Hをそれぞれあてはめ質問を考えていくことを提案する。

①の謝罪についてはさておき、例えば②の事実の詳細なら、いつ、どこで、誰が、何を、どうして、どのようにという質問を考えてみる。できるだけ1人で問題をつくるのではなく、複数の人間で考え、しかも、それぞれ自社に不利な質問から考えたほうがいい。「謝罪会見なら、記者は好意的な質問はしてくれないでしょう」(井上氏)。ただし、社内での訓練では、記者役に社長が本気で怒り出してしまうこともあるとのことで注意が必要だ。

回答の仕方については、社内で情報共有できている事項か確認するとともに、時間があれば弁護士を招き、回答に法的な問題がないか、リーガルチェックを加える。ただし、人の安全にかかわる問題などについては、事前訓練などをしている暇はなく「発生・発覚から2時間以内には記者発表できるようにすべき」(井上氏)。そのためには、危機管理体制はもちろん社内連絡網、危機管理マニュアルなどの基本的な事項が結局は最も重要になるというわけだ。

記者会見のテクニックとして、その良し悪しは別として、現在行われているものの中には、時間設定を故意的に設定しているケースもあるという。例えば、自分たちに都合の悪い会見で、翌朝刊への扱いを抑えたい場合に、午前中の遅い時間を指定し、故意的に夕刊で大きく扱わせてしまうケース。または、テレビ報道で、夕方のニュース時間帯に合わせて記者会見を開き、テレビの編集作業を取らせないで、生放送で対応させるケースなど。この場合、ある一部の発言を繰り返し報道されるような放映を避けさせるねらいがあるという。井上氏は、危機発生時の広報のあり方について「被害がゼロになるような錯覚をされる方がいるが、まず発生したことに対して被害は決してゼロにならないことを肝に銘ずるべき」と語る。

その上で、被害を最小に抑えるための努力を全社員が一丸となって行った結果、ひょっとしたら企業のイメージが上
がるなど、リスクがチャンスになることもあり得るとする。
例として、リチャード・ニクソンが合衆国上院議員で共和党の副大統領候補であった1952年にテレビ・ラジオ向けに行った「チェッカーズスピーチ」を挙げる。

当時ニクソンは、政治活動資金の使い方に不正があるとともに、物品の提供も受けているなどと非難されていて、これに対する演説として、一連の非難への反論と弁明をするとともに、支援者から贈られてきて、子供たちが「チェッカーズ」と名付け可愛がっている犬だけは返すつもりはないと発言し、国民から絶大な支持を得た。