~機能継続の視点で考える、非構造部材の 地震対策の優先順位付け~

大成建設株式会社 ライフサイクルケア推進部 関山 雄介

 レジリエンス・ポイント
  ●構造体以外の建築二次部材、生産装置、建築設備などの被災に留意する
  ●生産に必須の経営資源(リソース)をもれなく特定し、個々の被災リスクを評価する
  ●生産機能停止のインパクトを評価し、減災対策の優先順位付けを行う


 

■震災事例と事業継続(生産機能の継続)
地震による被災事例を図1に示す。1つ目は天井材や天井内に吊られている設備機器および配管の落下である。2011年3月11日に発生した東日本大震災では、震度6強に限らず6弱・5強・5弱の地域でも数多く発生している。

2つ目にパーティションの転倒である。工場内で生産室や事務室などを区画する際によく利用されているが、天井材に固定されている事例が大半であり、地震によりパーティションの変形が大きくなり固定部分が外れ転倒する可能性が高くなる。また収納棚をパーティションに固定しているとその重みで転倒しやすくなる。

また自動倉庫も被災している。被害の多くがラックの上部に保管された積荷の落下が原因となっている。この現象は棒積み品や嵩高品の荷崩れが多い傾向にある。一方建物を免震した自動倉庫ではラック上の積荷が多少ずれた程度で、自動倉庫の運用への影響はない。これらより自動倉庫の地震対策には、ラック自体の地震対策に加え積荷の落下による被害をいかに少なくするかが大きな課題と言える。

このように工場において「生産を継続させる」という視点でその機能を細かくひも解いてみると、ファシリティだけ考えても様々な経営資源(リソース)があり、それらリソース1つが損傷しても生産が停止する可能性がある。例えば構造体の耐震性をいくら高めてもクリーンルームを構成するパーティションの転倒や天井・空調ダクトが落下すれば生産ラインは停止する。あるいは生産受注・発送に必要なシステムが停止しても生産活動に支障をきたす。生産は全く問題なく稼働していても、自動倉庫が被災しては出荷ができない。

そうならないためには重要業務に関わるあらゆるリスクを洗い出し、事前対策を実施しなければならない。しかしすべてのリスクをゼロにすることは事実上不可能であり、限られた資金と期間の中で優先順位を付け段階的に実施することになる。そのためには、様々な耐震基準をベースに設備機器の機能維持、内外装材の落下・転倒・移動の防止などトータルでバランスのよい対策が必要となる。

■非構造部材と設備機器の地震対策
(1)地震対策の流れ
対象リスクが地震であれば図2のようなフローが考えられる。まず確認すべきは構造体の耐震性である。1981年以前の旧耐震基準で施工された建物であれば耐震診断を実施し、Is値という数値からどれくらい耐震性があるかを評価する。構造体が所定の強度を確保していれば、次は非構造部材や建築設備・生産装置の評価を行う。

最初に重要ファシリティのチェックリスト(図3)を作成し、現地調査や機器の転倒計算などを行い、その結果どのように被災するかをシナリオにする。シナリオにすることで被災状況がよくわかり、社内の共有認識として活用が可能となる。そして重要業務への影響度などから対策の優先順位を決め、ガイドラインとしてまとめ、地震対策を実施し管理する。ガイドラインとしてまとめることで各工場の対策レベルや方法を統一し、実施管理がしやすくなるといったメリットがある。

 

(2)業務プロセスの整理
チェックリストを作成するにあたり、対象となる重要業務のプロセスの中でどのファシリティを使用しているかを分析することから始める。そして重要業務を継続するためにそれらファシリティが使用できない場合の重要業務への影響度を検討し、事前対策の優先順位を決定することになる。分析には図面による確認、現地調査、関係者とのヒアリング等が必要となるが、生産現場と生産統括という2つの部署間では、リソースの重要度などで意見の食い違いが多い。両方の立場から意見を集約できると良い。

(3)リスクの洗い出し
分析・整理したリソースを参考に、想定されるリスクを洗い出す。天井材は点検口等から天井裏を確認し、ハンガーやクリップの施工方法、天井裏が深い場合(概ね1,500㎜以上)のブレースの設置等を確認する。パーティションは天井で固定されているか、あるいは上階のスラブに固定されているかを確認する。防煙垂れ壁は端部と柱や壁とがぶつかり合って破損する。どれくらいの層間変位に耐えられるか、ガラス端部に落下防止用のカバーがあるかなど、メーカーの仕様と納まりを確認する。またコンクリート壁に扉がある場合扉枠が地震により歪曲し開閉しない場合も想定されるので、避難経路に至る扉と壁の仕様を確認する。

また設備機器の固定については、機器の重心、ボルト径と本数等を確認し、せん断力や引抜力を計算する。地震の揺れに対しXとY両方向に有効に固定している事が必要である。また、ケーブルラックや配管も吊金物を耐震型の鋼材としているか、適度な振れ止めをしているか等を目視で確認する。

このようにして調査・検証した結果を「重要ファシリティの機能継続」の視点で評価して対策の優先順位づけを行う。評価項目としては、「そのリスクの発生確率」、「重要業務への影響度」、「復旧難易度」、「人命への影響」などがあげられる。

(4)減災対策の立案
洗い出したリスクに対して減災対策を立案するが、その方法は対象物の特性や設置環境ごとに耐震対策の方法は異なり、実験や経験に基づいたノウハウや技術力が必要となる。社内のメンバーだけではなく、建築工事業者、生産装置メーカー、設備機器メーカーも加えて最適解を得る体制づくりを構築する。事前対策の検討にあたっては耐震レベルによってその対策の手法もコストも異なるため、対象業務の重要性、目標復旧時間、当該敷地の地震リスクの大きさ、事前対策の費用対効果などを考慮して、耐震目標を設定することが重要である。

【執筆者プロフィール】
関山雄介 大成建設株式会社ライフサイクルケア推進部1965年生まれ、東京都出身。1991年日本大学大学院卒業後、大成建設入社。設計本部勤務などを経て、2000年より現部署。一級建築士、一級建築施工管理技士、認定ファシリティマネジャー

 
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転載元 レジリエンス協会 会報 レジリエンス・ビュー 第6号
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