人も組織も変化はつきものです(出典:写真AC)

■いつかその日はやってくる

最近になってBCM(事業継続管理)担当のMさんは、しばしば浮かない顔をするようになりました。先ごろ行われた経営会議で、思わぬ言葉が社長の口から出たからです。それは経営方針が大幅に変わるという話です。景気回復にともない、より収益性の高い製品を開発するために新事業部門を立ち上げるというのです。そして、この流れの一環として当年度中に組織全体を新体制に移行するとのこと。

経営陣はもとより、社員の多くもこれに期待を寄せています。しかし、ゼロからBCPの導入に関わり、完成後は社内に危機管理の文化を浸透させるべく努力をしてきたMさんとしては、いろいろと未知なる不安の方が大きいのです。その理由を一言で述べるなら、Mさん自身も含め組織が大きく変わるであろうことへの危機感です。

担当が代わっても大丈夫なように、これまでやってきたことを整理して、しっかりとした引継ぎマニュアルを作っておくこと。これが最も基本的で無難な解決策ではあります。しかし、マニュアルを作っておくだけでは無力です。体制が変われば、BCMを構成する各部分に予想しなかったような影響が出るかもしれない。今まで少しずつ社内に浸透させ、はぐくんできたことが、なし崩し的に損なわれていくような気がするのです。

■新体制への移行を失敗させないための3つの要件

漠とした不安を抱えるMさんでしたが、このまま手をこまねいているわけにはいきません。来るべきシフトに備えてやるべきことはやっておこうと思いました。それが次の3つであり、それぞれの結果を踏まえて必要な対策をPDCAで解決しておこうと考えたのです。

(1)人員
BCPには危機対策本部のメンバーをはじめ、初動対応、事業継続および復旧の活動のためにアサインされた人が数多くいます。また日常的には訓練や演習をサポートするスタッフ、BCPに記載する多種多様なリストの情報ソースもしくは更新窓口となる担当者がいます。彼らをどのようにシフトし、どのように教育するのかを決めなくてはなりません。

(2)経営資源
これは新体制下での事業方針と大きくかかわりがあります。主力事業が変わればBCPの目的も変わる。BCPで守るべき経営資源も変わる。さらに、新規事業で新たに開拓する多種多様なベンダーやパートナー企業が出てきます。また、これまでのBCPでターゲットとしてきた「重要顧客」と新規事業の顧客とは必ずしも一致はせず、段階的にBCPの守備範囲をシフトしていかなければなりません。

(3)他部門との調整
これも新しい事業方針と連動します。3つの中では最も時間がかかり、段取りとしても最終段階に来るのがこの部分です。単に社内のスタッフをシフトし、役割を引き継いでもらっただけでは新たな環境に適用することはできません。完全な縦割りの状態に過ぎないからです。ここから内外の他部門との横のつながり、つまり緊急時にお互いに連絡を取り合い、緊密に連携できるように調整しなければならないのです。

いずれの課題も、業種や会社の規模、その会社のBCMが事業運営上どのレベルに位置付けられてきたかによって扱い方が異なることは言うまでもありません。